
ソラマメみたいにまがった、飯ごう炊飯の黒いアルミの容器の。びったり閉まったふたのすき間から。
むくむく白い湯気があがってくる。
「ねぇ、これって、もうできてるんじゃないの~。開けてみようよ~」
直接さわると熱そうだから、小枝をつかって、ふたを開けようとしたら。
「和泉ぃ~! ダメだぁ~っ!! 」
調理場のまな板の前から、誠が走ってきた。
「お米炊いてるとちゅうは、『赤子泣いてもふた取るな』って、知らないのぉ~?」
ブロックでくぎられたかまどの前に立ちふさがって、あたしの前でニンジンをふりまわしてる。
「え~? だけど、湯気があがってるし。なんか、中でぶくぶくいってるし~」
「ダメぇ! ダメ! さわんないっ!! 」
「綾、それは誠が正しい。さっさとこっち来て、ジャガイモの皮むいてっ!」
真央ちゃんに呼ばれて、あたしはしぶしぶ、かまどの前から移動した。
ここ、浅山のすそにあるキャンプ場。
屋根のついた教室くらいの大きさの調理場があって、ブロックでくぎられたかまどが、左右に十数個もならんでる。
真ん中には、長テーブルと流し台。
雲の切れ間に青空が見えて、きょうはなかなかの、卒業キャンプ日和。
うちの班のテーブルを見たら、山田にタマネギの切り方を教えてる有香ちゃん。トントン景気のいい音で、ニンジンを切ってく誠。洗ったジャガイモを運んできた真央ちゃん。
調理場の屋根の下、ほかの班の子たちも笑いあいながら、それぞれ自分たちのカレーライスをつくってる。
リンちゃんも青森さんも、まな板の前で四人、顔をあつめて、ケラケラ笑って楽しそう。
ヨウちゃんにフラれた後遺症は、もう、のこってないみたい。
……なんだけど。
あたし、右手にピーラー、左手にジャガイモをにぎりしめて、また、ふわ~と歩き出した。
調理場の北すみのかまどの前で、ヨウちゃんがブロックに座って、ひとり、ひざの上でほおづえをついている。
琥珀色の目が見つめているのは、かまどにくべられた薪の火。
く……暗……。
リンちゃんたち、ヨウちゃんにフラれてから、ヨウちゃんの席にあつまらなくなっちゃったんだよね。
だけど、今さら飯ごう炊飯の班はかえられないから。仲良くなくなっても、ヨウちゃんは、リンちゃんたちと同じ班。
こう見てると、仲間はずれにされてる、いじめられっ子みたいなんだけど。
あたしは、きゅっとつばを飲み込んで、ヨウちゃんの横にしゃがみ込んだ。
ドキドキ、ドキドキ。心臓の音、激しい。
だって、あたしなんて、リンちゃんたちよりも、もっとずっとひどくて。
二週間前に、ヨウちゃんから絶交宣言されちゃってるんだよ !?
ヨウちゃんはチラッと、横目であたしを見たけど、やっぱり、ずっとだまったまんま。
「……あのさ。ヨウちゃん。気まずいのもわかるけど、自分からリンちゃんたちに話しかけたほうがいいと思うよ」
しゃべりながら、あたしのくちびる、震えてる。
「……なんでだよ」
ぼそっと、ヨウちゃんがつぶやいた。
「オレはもともと、ひとりでいるのが好きなんだ。やっとまわりが静かになって、ホッとしてんのに」
「女の子にちやほやされるのが好きって、前、言ってたじゃん」
「そんなん、とっくに飽きた。そばにいるのは、自分が必要としてる人間だけでいい」
ズキンと胸が痛んだ。
ヨウちゃんが必要としてる人の中に、あたしはもう入ってない。
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