《5》 決戦は卒業キャンプで 1 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 1

  30, 2019 22:58
2019032703




 ソラマメみたいにまがった、飯ごう炊飯の黒いアルミの容器の。びったり閉まったふたのすき間から。

 むくむく白い湯気があがってくる。


「ねぇ、これって、もうできてるんじゃないの~。開けてみようよ~」


 直接さわると熱そうだから、小枝をつかって、ふたを開けようとしたら。


「和泉ぃ~! ダメだぁ~っ!! 」


 調理場のまな板の前から、誠が走ってきた。


「お米炊いてるとちゅうは、『赤子泣いてもふた取るな』って、知らないのぉ~?」


 ブロックでくぎられたかまどの前に立ちふさがって、あたしの前でニンジンをふりまわしてる。


「え~? だけど、湯気があがってるし。なんか、中でぶくぶくいってるし~」

「ダメぇ! ダメ! さわんないっ!! 」

「綾、それは誠が正しい。さっさとこっち来て、ジャガイモの皮むいてっ!」


 真央ちゃんに呼ばれて、あたしはしぶしぶ、かまどの前から移動した。


 ここ、浅山のすそにあるキャンプ場。

 屋根のついた教室くらいの大きさの調理場があって、ブロックでくぎられたかまどが、左右に十数個もならんでる。

 真ん中には、長テーブルと流し台。

 雲の切れ間に青空が見えて、きょうはなかなかの、卒業キャンプ日和。

 うちの班のテーブルを見たら、山田にタマネギの切り方を教えてる有香ちゃん。トントン景気のいい音で、ニンジンを切ってく誠。洗ったジャガイモを運んできた真央ちゃん。

 調理場の屋根の下、ほかの班の子たちも笑いあいながら、それぞれ自分たちのカレーライスをつくってる。

 リンちゃんも青森さんも、まな板の前で四人、顔をあつめて、ケラケラ笑って楽しそう。

 ヨウちゃんにフラれた後遺症は、もう、のこってないみたい。


 ……なんだけど。


 あたし、右手にピーラー、左手にジャガイモをにぎりしめて、また、ふわ~と歩き出した。


 調理場の北すみのかまどの前で、ヨウちゃんがブロックに座って、ひとり、ひざの上でほおづえをついている。

 琥珀色の目が見つめているのは、かまどにくべられた薪の火。


 く……暗……。


 リンちゃんたち、ヨウちゃんにフラれてから、ヨウちゃんの席にあつまらなくなっちゃったんだよね。

 だけど、今さら飯ごう炊飯の班はかえられないから。仲良くなくなっても、ヨウちゃんは、リンちゃんたちと同じ班。

 こう見てると、仲間はずれにされてる、いじめられっ子みたいなんだけど。


 あたしは、きゅっとつばを飲み込んで、ヨウちゃんの横にしゃがみ込んだ。

 ドキドキ、ドキドキ。心臓の音、激しい。

 だって、あたしなんて、リンちゃんたちよりも、もっとずっとひどくて。

 二週間前に、ヨウちゃんから絶交宣言されちゃってるんだよ !?


 ヨウちゃんはチラッと、横目であたしを見たけど、やっぱり、ずっとだまったまんま。


「……あのさ。ヨウちゃん。気まずいのもわかるけど、自分からリンちゃんたちに話しかけたほうがいいと思うよ」


 しゃべりながら、あたしのくちびる、震えてる。


「……なんでだよ」


 ぼそっと、ヨウちゃんがつぶやいた。


「オレはもともと、ひとりでいるのが好きなんだ。やっとまわりが静かになって、ホッとしてんのに」


「女の子にちやほやされるのが好きって、前、言ってたじゃん」


「そんなん、とっくに飽きた。そばにいるのは、自分が必要としてる人間だけでいい」


 ズキンと胸が痛んだ。

 ヨウちゃんが必要としてる人の中に、あたしはもう入ってない。



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