《4》 告白の後先 14 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 14

  27, 2019 23:14
20190209


「しつれいね。ママだって長く生きてるんだから、若いころには、鉢でミントを育てたりもしたわよ。ローズマリーのサシェだって、つくったわよ」

「ホントっ!? 」

「サシェはいいのよ? 香り袋として、お洋服といっしょにクローゼットに入れたり、カバンに入れたりして、楽しめるもの。綾は、どんな形のものをつくりたいの?」

「……ほぇ? かたち?」

「やだ、この子ったらっ! なんにも考えてなかったんじゃないでしょうねっ!?  サシェって、中にハーブをつめこむ、小さな袋でしょ。そのまま、きんちゃく袋にしてもいいけど。クッションみたいに四角にしたり。テトラ型にしたり。ハートとか、星とか、好きな形をつくればいいのよ。

ほら、葉っぱは、さっさとレンジでチンしちゃって。その間に、デザインを考えなさい」


 なんだか、ママのほうがうきうきしてる。

 うながされて、あたし、チラシの裏に完成図を描いてみることにした。


 でも、ヨウちゃんがよろこぶ形ってどんなだろう……。


――オレは二度とおまえと口をききたくないっ!――


 ズキッと、言葉が胸につきささる。


「よろこぶ形なんて、あるわけないよ……。なにをあげたって、ヨウちゃんは、もう、あたしがあげたものなんかで、よろこばない……」


 ぼろぼろ涙があふれてきて、しゃくりあげたら、肩に、ポンとママの手が置かれた。


「……綾。人のためにつくるの? ちがうでしょ」


「……え?」


「葉児君となんのケンカしたか、知らないけど。あなたにはまだ、これを、あげたいって気持ちがある。だから、そのために……自分のあげたいっていう気持ちのために、つくるんじゃないの?」


 ……自分のあげたい、気持ち……?


 そうだった。

 ビビリでヘタレのヨウちゃんの、「怖い」って気持ちが少しでもやわらいでほしくて。

 あたしは、これをつくりたいんだった。

 考えたデザインは、けっきょくふつうに四角いクッション型。

 理由は、一番単純で、裁縫が苦手なあたしでもできそうな形だから。

 で。単純にしたはずなのに、縫い目は大きくなったり、小さくなったり。

 ボコボコしていて、なにこの、ちっさいぞうきんみたいな、ヘンな物体……。

 ずーんと、落ち込むあたしの横で、ママもハア~。


「……これは……呪いの袋とまちがえられてもおかしくないわね……」


「……も~いい。やっぱ、わたすのやめる~」


「でも、大事なのは、中身でしょ?」


 あたしはハッとして、テーブルから顔をあげた。


「割合っ! ネトルとヤロウの割合がかんじんなのっ!」


 だって、あたしがあげたいのは、ただの香り袋じゃない!

 フェアリー・ドクターの魔力がつまったサシェなんだっ!


 ママから調理用のはかりを借りて、ネトルが2で、ヤロウが3。

 だけど葉っぱをほんの少し足しただけで、割合がぜんぜんかわっちゃう。




 レイトショーが終わって。パパは寝室に引きあげて。


「じゃあ、綾。ママももう寝るから。寝るときに、エアコン消して、リビングの電気も消しといてね」


 ママまで、寝室にあがってっちゃって。

 ひとりぼっちになったリビングで。



 ちっさいぞうきんみたいな袋の中身が、ぽわっと虹色にかがやきだした。

 中につめ込まれた乾燥ハーブの表面で、オーロラみたいな虹色の光がゆれている。


「……できた」


 あたしは、針と糸で、袋をちまちま縫い閉じていった。




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