
「しつれいね。ママだって長く生きてるんだから、若いころには、鉢でミントを育てたりもしたわよ。ローズマリーのサシェだって、つくったわよ」
「ホントっ!? 」
「サシェはいいのよ? 香り袋として、お洋服といっしょにクローゼットに入れたり、カバンに入れたりして、楽しめるもの。綾は、どんな形のものをつくりたいの?」
「……ほぇ? かたち?」
「やだ、この子ったらっ! なんにも考えてなかったんじゃないでしょうねっ!? サシェって、中にハーブをつめこむ、小さな袋でしょ。そのまま、きんちゃく袋にしてもいいけど。クッションみたいに四角にしたり。テトラ型にしたり。ハートとか、星とか、好きな形をつくればいいのよ。
ほら、葉っぱは、さっさとレンジでチンしちゃって。その間に、デザインを考えなさい」
なんだか、ママのほうがうきうきしてる。
うながされて、あたし、チラシの裏に完成図を描いてみることにした。
でも、ヨウちゃんがよろこぶ形ってどんなだろう……。
――オレは二度とおまえと口をききたくないっ!――
ズキッと、言葉が胸につきささる。
「よろこぶ形なんて、あるわけないよ……。なにをあげたって、ヨウちゃんは、もう、あたしがあげたものなんかで、よろこばない……」
ぼろぼろ涙があふれてきて、しゃくりあげたら、肩に、ポンとママの手が置かれた。
「……綾。人のためにつくるの? ちがうでしょ」
「……え?」
「葉児君となんのケンカしたか、知らないけど。あなたにはまだ、これを、あげたいって気持ちがある。だから、そのために……自分のあげたいっていう気持ちのために、つくるんじゃないの?」
……自分のあげたい、気持ち……?
そうだった。
ビビリでヘタレのヨウちゃんの、「怖い」って気持ちが少しでもやわらいでほしくて。
あたしは、これをつくりたいんだった。
考えたデザインは、けっきょくふつうに四角いクッション型。
理由は、一番単純で、裁縫が苦手なあたしでもできそうな形だから。
で。単純にしたはずなのに、縫い目は大きくなったり、小さくなったり。
ボコボコしていて、なにこの、ちっさいぞうきんみたいな、ヘンな物体……。
ずーんと、落ち込むあたしの横で、ママもハア~。
「……これは……呪いの袋とまちがえられてもおかしくないわね……」
「……も~いい。やっぱ、わたすのやめる~」
「でも、大事なのは、中身でしょ?」
あたしはハッとして、テーブルから顔をあげた。
「割合っ! ネトルとヤロウの割合がかんじんなのっ!」
だって、あたしがあげたいのは、ただの香り袋じゃない!
フェアリー・ドクターの魔力がつまったサシェなんだっ!
ママから調理用のはかりを借りて、ネトルが2で、ヤロウが3。
だけど葉っぱをほんの少し足しただけで、割合がぜんぜんかわっちゃう。
レイトショーが終わって。パパは寝室に引きあげて。
「じゃあ、綾。ママももう寝るから。寝るときに、エアコン消して、リビングの電気も消しといてね」
ママまで、寝室にあがってっちゃって。
ひとりぼっちになったリビングで。
ちっさいぞうきんみたいな袋の中身が、ぽわっと虹色にかがやきだした。
中につめ込まれた乾燥ハーブの表面で、オーロラみたいな虹色の光がゆれている。
「……できた」
あたしは、針と糸で、袋をちまちま縫い閉じていった。
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