《4》 告白の後先 13 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 13

  24, 2019 22:28
20190209


「ち、ちがう! ヨウちゃんのお母さんは、ヘアベルのことなんか知らないっ! これは、あたしが勝手に、ヨウちゃんのノートを読んで……」


 言いかけて、あたしはバッと、自分の口を両手でふさいだ。

 チラッと、冷たい視線があたしを見おろした。


「ふ~ん。やっぱ、おまえ、勝手に書斎に入ったのか。人を自白させる方法を調べるために、留守をねらって、人んちの書斎に忍び込む。やり方、すげぇ卑劣だな」


「ち……ちが……」


「ちがうかどうか、白状させてやろうか? 少しは人の気持ち、わかったほうが、おまえのためにもいいだろ?」


 ぞくっとした。


 手の中のヘアベルを、ヨウちゃんが、あたしの胸につきつけてくる。


 一歩、足を後ろに引いたら、ひざに力が入らなくて、ガクッとなった。



「とにかく、もう帰れ。オレは二度とおまえと口をききたくないっ!」


 地面に落ちた紙袋を拾いあげて、ヨウちゃん、家に向かって歩き出す。


 寒い。

 ヨウちゃんが氷みたい。


 カフェの玄関が開いていて、ヨウちゃんのお母さんが立っていた。ドアに背中でもたれて、ヨウちゃんをにらんでいる。


「なに? かあさんもさっさと入って仕事すれば? 客、待ってんじゃねぇの?」


 横を通りすぎようとしたヨウちゃんのほおを、パンっと、お母さんの手のひらが、はたいた。


――え?


 目を見開いて、お母さんを見おろすヨウちゃん。

 息子を見あげるお母さんの目に、涙が浮かんでる。


「あなたの許可をとらずに、綾ちゃんを書斎に入れたことはあやまるわ。でも、今の綾ちゃんに対する態度はなにっ!?  もし、それがあなたの本心でも、人にあんな言い方するもんじゃない。本心じゃないのなら、人を傷つけない別のやり方を、考え直しなさいっ!! 」



* * *






 時計が、カチカチと時を刻んでいく。

 パパは、リビングのソファーに腰かけて、テレビでレイトショーを見ていて。ママはドライヤーで、自分の髪をかわかしている。

 ダイニングのテーブルに、新聞紙をしいて。その上に、ネトルとヤロウの葉っぱを広げて。

 あたしは自分が書いたメモの文字をながめてる。


「ネトルとヤロウのサシェ。携帯すると、恐怖心がやわらぐ」


――ふ~ん。やっぱ、おまえ、勝手に書斎に入ったのか――


 ヨウちゃんの瞳がよみがえってくる。


――人を自白させる方法を調べるために、留守をねらって、人んちの書斎に忍び込む。やり方、すげぇ卑劣だな――


 ガラス玉みたいな目だった。目から感情が消え失せていた。


 ……痛い。


 でも、本当に痛かったのは、あたしじゃない。

 あたしに裏切られたヨウちゃんのほうだ。


「綾。サシェつくるんでしょ? ここにあるハギレ、つかう? あんたの給食袋縫ったのこりとか、テーブルクロスののこりとか、あんまり大きいのはないけど」


 頭にタオルを巻いたままで、ママが裁縫箱を運んできた。

 お重みたいに三段の引き出しがついた木の箱の下ニ段に、色とりどりのハギレがたくさんつめこまれている。


「……うん」


「そんな、新聞紙に葉っぱならべて待ってても、なかなか乾燥しないんじゃない? いっそ、レンジでチンしちゃったら?」


「……え? レンジ……?」


「めずらしいことじゃないわよ。ハーブティー用にドライハーブをつかいたいときだって、生の葉っぱをチンしたりするんだから」


「ええっ!?  ママ、ハーブティーなんて入れたこと、あるの?」



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