
「知らないに決まってんだろっ!! 教えないようにしてたんだからっ! おまえ、アホっ子だから、万能薬だなんて知ったら、いい気になって、りんぷんをつかいまくるに決まってんだっ! で、気づいたら手遅れじゃ、すまないんだよっ!!
オレは、べつに、おまえを黒いタマゴのところに連れてったって、おまえのりんぷんを、たよるつもりはない。けど、わかんないじゃねぇかっ!! いざとなったときに、自分がどういう行動に出るかなんてっ!! もし、オレが、自分のことを優先させて、綾を犠牲にでもしたらどうすんだよっ!! 」
「……よ、ヨウちゃん……」
ハアハア肩で息をつきながら、ヨウちゃんの体から力が抜けていく。
ぽうっと、体を包み込む虹色の光。
これが、ヨウちゃんが、必死で隠してたこと――。
「綾……オレ、怖いんだ……」
背中を丸めて、ヨウちゃんは、頭を、こてんとあたしの左肩に倒した。
「オレ……今も、あの目に見られてる気がする。あの目は……オレのことを、とうさんだって、思ってる。自分が殺したはずのとうさんが、まだ生きてたんだって、息巻いてる。いつでも殻からとびだして、襲ってやるって身がまえてる……」
「ヨウちゃん……」
やっぱり、ヨウちゃんは知ってたんだ……。
お父さんが亡くなった理由……。

あたしは、ヨウちゃんの平たい背中に手をまわして、後ろ頭にふれてみた。
くしゃっとやわらかい、琥珀色の細い髪。
「怖いよね……キツイよね……」
小さい子でも平気なオバケ屋敷でさえ、怖いのにね。
ガサっと、ヨウちゃんの左手から、紙袋が落ちた。自由になった両腕が、あたしの腰にぎゅうっと抱きついてくる。
そでがあがって、パーカのわきのしたの生地が引っぱられる。
ポケットから、虹色の花がこぼれ落ちた。
「……あっ!」
声を出して、「しっぱいした!」って、気づいたときは遅かった。
ヨウちゃんはもう、自分の足元を見おろしていた。
琥珀色の目が、時がとまったように、ヘアベルを見ている。
「……ヨウ……ちゃん」
ヘアベルは、地面に熱を吸いとられるかのように、虹色の光をなくしていく。
「――ふ~ん。そういうこと」
長い右腕が動いて、ヘアベルを拾いあげた。
「綾。おまえ、人を自白させたのか。……いい趣味だな」
うつむいた前髪の下で、ヨウちゃん、片口だけあげて笑ってる。
「じ、じはく……?」
「口を割らせるって意味だよ。どうせ、かあさんもグルなんだろ?」
ほおが、石膏みたいに硬い。
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