
小路にしきつめられた小石を、スニーカーの底が踏みしめる音が近づいてくる。
しゃがみこんだまんまで、そ~っと、目だけ上にあげる。
琥珀色の髪が、日差しに照らされていた。
左手に紙袋をさげて、右手をジーンズのポケットにつっこんで。ヨウちゃんが冷めた目で、あたしを見おろしてる。
「おまえ、なにしてんだよ、人んちで」
「……えっと……」
どうしよう。言い訳できない……。
「綾ちゃんを呼んだのは、わたしよ」
玄関のほうを見たら、半分開いたドアに寄りかかって、お母さんが腰に手を置いていた。
「ヨウちゃんが、ぜんぜん、綾ちゃんをうちに呼んでくれないから。たまにはお茶にいらっしゃいって、誘ったの。ね、綾ちゃん!」
「かあさん、余計なこと……」
ヨウちゃんのスニーカーが、お母さんのほうを向く。
……今っ!
あたしはサッと手をのばした。
虹色にかがやくヘアベルを一輪、ヨウちゃんのパーカのポケットに、後ろからつっこむ。
ポケット越しに虹色の光が点滅してる。
ドキドキ、ドキドキ。
鼓動で、胸がはり裂けそう。
これって、しちゃいけないことだよね?
人が隠してることを、強引にききだそうとするなんてっ!!
妖精に対するときだけにつかえる、フェアリー・ドクターの魔力。
あたしは半分妖精。
だから……あたしには、この花の魔力をつかうことができる――。
「ヨウちゃん。ききたいことがあるの」
琥珀色の目をにらみつけて、あたしは立ちあがった。
「ヨウちゃんは、ひとりで黒いタマゴを壊しに行くつもりなの?」
ヨウちゃんののどが鳴った。
眉がひそまる。琥珀色の目が、震えだす。
「書斎に、薬のビンがならんでた。あれって、戦闘準備だよねっ?」
パーカのポケットが虹色に光った。ヨウちゃんの体全体を虹色に包みこむ。
「――そうだ」
ほおを引きつらせながら、ヨウちゃんが口を動かした。
「なんで、ひとりで行くのっ!? あたしも行くっ! ヨウちゃんといっしょに、黒いタマゴを壊しに行くっ!! 」
「それは……ダメだ」
「どうしてっ!? 」
あたしはぎゅっと、両手で、ヨウちゃんのパーカの胸をつかんだ。
ヨウちゃんが奥歯をかみしめる。
抵抗してるんだ。ヘアベルの魔力に。
「……もし、なにかあったとき……オレが……おまえをたよろうとするから……」
ヨウちゃんのこめかみを、汗が伝った。
「妖精のりんぷんは……万能薬だ。妖精のりんぷんは……人が妖精から受けたすべての傷を癒す」
……え?
あたしの持っている銀色の羽。その羽を形づくってる銀色の光の粒。
あのりんぷんに……そんな力があるの……?
「誠が治ったのも……りんぷんの力だ……。だけど、ダメだ。これ以上、りんぷんをつかうな! りんぷんをつかいきると、妖精は消滅するっ!! 」
――消滅……っ!?
「……ウ……ソ……。そんなのあたし……知らない……」
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