《4》 告白の後先 10 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 10

  16, 2019 21:30
20190209






 書斎からお店にあがると、お昼の十二時をすぎていた。

 ランチメニューをつくって、ケーキを出して。お母さん、いそがしそう。


 今、話しかけるのは、めいわくだよね。


 あたし、手の中のメモをにぎりしめる。

 ネトルとヤロウのサシェのつくり方を書きとめたメモ。


「あら、綾ちゃん。もう、いいの?」


 季節のハーブパスタをお客さんのテーブルに置いて、お母さんがカウンターにもどってきた。


「うちで、お昼食べてく? ケーキとハーブティーもサービスしちゃうわよ」

「ありがとうございます。でも、早く帰ってやりたいことがあって……。あの、お母さん、この庭にネトルとヤロウの葉っぱはありますか?」

「もちろん。ネトルはそっちの生垣のすみで、ヤロウはこっちのサンシェードの下よ。つんでいくなら、ネトルは軍手してね。トゲが針みたいで、チクチクするの。あと、生ではぜったいに食べちゃダメよ」


 お母さんに軍手と園芸バサミと編みかごを手渡されて、あたしはお礼を言って、ハーブの庭に出た。

 久しぶりに空が青くて、日差しがまぶしい。

 ネトルの茂みは、あたしの身長ぐらいもあって、葉っぱの先がトゲみたいにとがっていた。

 しっかり、革の軍手をして。茎をハサミで切る。


「ネトルさん、怖がりのヨウちゃんを助けてあげて」


 答えるように、ぽうっと葉っぱが虹色にかがやいた。

 葉っぱに、フェアリー・ドクターの力が宿ったあかし。


 編みかごに葉っぱを何枚か入れたら、今度はサンシェードの日陰に植わったヤロウのところへ。

 こっちの葉っぱもギザギザで、深緑色の小さなノコギリがいっぱいついてるみたい。

 身を守るためのサシェだから、悪い妖精を寄せつけないように、とがった葉のハーブばっかりつかうのかも。


「ヤロウさん、ヨウちゃんから苦しみを遠ざけて」


 ヤロウの葉っぱも虹色にかがやいた。


 うちに帰ったら、この二種類の葉っぱを乾燥させて。ネトルのトゲを落として。細かくくだいて。布でつくった袋に入れて……。


 やらなきゃならないことを考えながら、お庭を歩いていたら、小路のわきに、青紫色の花が咲きほこっていた。

 小さなベルの形をしていて、どの花も首をうつむけている。


 う~……カワイイ。妖精が帽子にしてそう……。


 しゃがみこんで見とれちゃう。

 お客さんの見送りに、お母さんが玄関まで出てきた。


「綾ちゃん、それ、ヘアベルっていう花よ。今年はいつもより長く咲いたけど、それで咲き終わりね。せっかくだから、つんでいって、おうちにかざる?」

「ホントっ!?  いいんですかっ?」

「どうぞ、どうぞ。好きなだけ持ってって」


 わぁ~っ!


 目、キラキラで、ベルみたいな形のお花に、そっとふれて。

 あたしの頭に、さっき、書斎で見たばかりの文字が浮かんできた。


――ヘアベル。煎じ薬は呪いを封じこめる。花を身につけると、どんなことにもウソがつけなくなる――


 シャープペンで、ノートに走り書きされていた。


 ……どんなことにもウソがつけなくなる……。


 ごくっと、つばを飲み込んだ。

 園芸バサミを持つ手が震えだす。


「ヘアベルさん、どうか――」


 茎をはさみで切りながら、口の中でつぶやいたら、青紫色のヘアベルに、ぽわっと、虹色の光がともった。

 まるで、妖精がともしたランプみたい。




「……綾」


 背中から、低い声がきこえて、あたしの心臓、ビクッととびはねた。



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