《4》 告白の後先 8 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 8

  12, 2019 23:16
20190209




* * *


 ヨウちゃんちの家電に電話して、ヨウちゃんのお母さんが出る確率は、八十パーセント。

 その八十パーセントを信じて、あたしは家電の子機のボタンを押した。

 呼び出し音が何回か鳴って、出たのは高い澄んだ声。


「はい。中条でございます」


 は~っと胸をなでおろす。

 ここでヨウちゃんが出ちゃったら、計画が台無しだもん。


「あの……ヨウちゃんのお母さんですか? あたし、和泉綾です」


 ドキドキしながら、あたしは話を切り出した。





「次の土曜日の午前中にいらっしゃい。あの子は、お店の買出しに行かせておくから」


 ヨウちゃんのお母さんに言われて、あたしは土曜日の九時に、坂を高台へとのぼっていった。

 ペンション風の三角屋根の家が建つ高台のてっぺんに、ひときわ白い横板壁の家が見えてくる。

 屋根には、風見鶏。

 高台の斜面に、海にせり出して建てられていて、崖に足場を組んで、下から家を支えている。

 生垣をぬけると、庭はハーブガーデン。幾種類もの、モスグリーンの形のちがう葉っぱでいっぱい。

 ここが、ヨウちゃんち。

 ヨウちゃんのお母さんは、自宅カフェ「つむじ風」をやっていて、庭のハーブをつかって、カフェに出すハーブティーやケーキをつくっている。


「いらっしゃい、綾ちゃん」


 ドキドキしながらドアホンを押したら、ゆるいウエーブのかかったミディアムヘアの女の人が、玄関を開けてくれた。


「久しぶりね~。元気にしてた? 最近ずっと来てくれないから、おばさんさびしかったのよ~」


 お母さん、笑うとほっぺたに、ぽっくりエクボができる。

 おねえさんとまちがえるくらい、かわいく見えるのは、有香ちゃんと身長が同じくらいで、目が大きいからかな。


「あ、あの。お母さん、ヨウちゃんは……?」


 あたし、ドキドキで、店内をキョロキョロ。



 ふいごの置いてある薪ストーブ。壁からぶらさがるドライハーブ。絵本から抜け出てきたみたいに、メルヘンなカフェ。

 お店がはじまるのは十時からだから、今はまだお客さんがいない。カウンターの横に、ウッド調のテーブルとイスが、たくさんならんでいる。


「だいじょうぶ。あの子は、電車で買出しに行かせてるから。お昼をすぎないと帰ってこないわ。おばさんね、電話で綾ちゃんが、あの子のことを心配してくれてるってきいて、すごくうれしかったの。

最近、ヨウちゃん、うちでもおかしいのよ。帰ってきても、ほとんど話もしないで、すぐに書斎にこもっちゃうの」


 白いレースのエプロンをはずして、お母さんが地下へ続く階段をおりはじめる。

 いつもエラそうなヨウちゃんでも、お母さんにとっては「あの子」だし、呼び方だって、小さいころのまんまの「ヨウちゃん」。


 お母さんについて、あたしも階段をおりていく。

 地下一階。ちょうどお店の真下が、お父さんの書斎。

 ヨウちゃんがどうしちゃったのか知りたくって、一番手っ取り早い方法は、ここに来ることだって、気がついた。

 って言ったって、ヨウちゃんがいたら、家にさえ、あげてくれないだろうから。

 お母さんに頼み込んで、本人を追い出して、強行突破。


 ふ~んだ。あたし、お母さんと仲良しだもんね!

 内側からせめてやる~っ!!


 お母さんが書斎の重いドアを、ギイと開ける。

 部屋をハーブの草のにおいが包んでいた。

 庭から刈り取ってきた葉っぱ。いろんな種類の葉っぱが、ゆか板が見えなくなるくらいに、散らばっている。

 それをかきわけて、積まれた英語の本。

 本だなから抜いてきて、そのままてきとうに積みあげてるだけみたい。本の上に、英和辞典ものっかってる。開いたまんまのノートに、書いてるとちゅうで、投げ捨てたみたいなシャープペン。

 お父さんの大きなつくえには、ガラスのビンがならんでた。

 その横には、園芸バサミ。厚底なべ。卓上カセットコンロ。倒れたビーカーにすりこぎ。

 すりこぎの中には、つぶされた葉っぱが、半分のこったまんま。




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