
「……あ~。オレとつきあおってこと? それ、い~よ。すぐに決めなくて。だって、オレ、和泉が葉児のこと好きだって、知ってるもん」
「……え?」
ドキッと胸が鳴る。
アホ毛をゆらして顔をあげたら、誠は「へへ」って鼻の頭をかいた。
「だからさ~。とりあえず、保留ってことで~。葉児を好きなままでいいからさ~」
「……いいの、誠? あたしがヨウちゃんのことを好きでも……?」
「うわ~っ! オレ、とうとう和泉の口から、ソレきいちゃった~っ!! 」
誠、急に頭を抱えて、砂浜の上にしゃがみ込む。
「やっぱ、へこむ~。でも、どうっしょもないんだよなぁ~」
誠って、素直。
ホンット素直。
あたしも見習わなきゃ。
「ありがとう、誠。あたしのことを好きになってくれて。あたしも誠といると楽しいよ。でも、あたし……誠の気持ちには応えられない……」
ショートパンツをはいた足で。あたしも誠の横で、砂の中にひざをついた。
「ヨウちゃんはさ。怒ることもいっぱいあるし、エラそうなんだけど。意外とビビリで、怖がりなんだ。
それなのにさ。今、あたしからもみんなからも、なにかを隠して、ひとりで、よくわかんない、すっごい怖いことに、たえようとしちゃってる。そんなのちょっと、危なっかしいじゃん。見てらんないよ。
あたしはアホっ子だけど、なにか助けられることはないかって、これからさがしてみようと思ってる」
潮風が吹いて、あたしの髪の毛を背中に流した。
そう……。
これが、あたしのやりたいこと……。
「……和泉」
立ちあがったあたしを、誠が見あげた。
「葉児のことで和泉がきつくなったら、葉児なんか投げ出してでも、逃げちゃえよ」
「え~? なにそれ。ひど~い!」
だって、ヒーローものの映画だったら、そこはぜったい、自分の身をていしてでも、相手を守んなきゃならないとこでしょ?
「ひどくないって。オレは葉児より、和泉のほうが大事だもん。あとさ。『好き』とか『つきあう』とか、そういうのはナシでさ。これからもオレと遊んでよ。だって、単純に。オレ、和泉といるとたのし~からさ~」
「なはは」って笑って、誠も立ちあがった。
「な、約束。友だち同士っ!」
あたしの右手をぎゅっとにぎった、しめっぽい誠の手のひら。赤い指先。

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