
その手のひらに、力がこもる。
……なんで……?
どうしよう。胸、ジクジク痛い。
「葉児?」
誠が声をかけると、パッと、ヨウちゃんの右手が開いた。
その手は、あたしの次の、山下さんのところにうつってく。
「な~んだ。和泉、ぜんぜんフツ~に踊れるじゃん!」
誠といっしょにステップを踏んでいたら、後ろで誠がにへって笑った。
「てか、すげ~うまい」
右手を上にあげて、あたしくるっと回って、誠とおじぎ。
どうしてだろう……。
足がステップを踏むたびに、ヨウちゃんの声が頭の奥で再生される。
低い、やわらかい声。奥からふつふつ熱がわいてて、だけどそれを、ベールでやさしく包んでる。
冷たいなんてウソ。
ヨウちゃんは、やっぱりやさしい。
あたし……どうしてもヨウちゃんが好きだよ……。
* * *
「和泉ぃ。きょう、オレんち遊びに来ない~?」
放課後。教室でランドセルを背負ってたら、誠がランドセルのふたをパタパタさせながら、やってきた。
「日曜、買い物につきあってくれたお礼にさ~、うちでホットケーキパーティーしようよ。生クリームのホイップと、フルーツ缶、今、冷蔵庫にあるからさ~」
うわっ! それ、すっごい楽しそうっ!
「行くっ!」って言いかけて、あたし口をつぐんだ。
ママに言われたっけ。
告白してくれた人に、好きな人がいることを伝えなきゃダメだって。
「誠。ちょっと、きょう、寄り道して」
「は? う、うん。もちろん、おっけ~」
ニコニコ笑いながら、誠があたしについてくる。
教室の後ろのドアに向かって歩きながら、あたしは、一番後ろの席を流し見した。
リンちゃんたちがまわりにいないと、ヨウちゃんの席って、ホント静か。顔をうつむけて、ヨウちゃん、ランドセルに教科書をつめこんでる。
まずは、自分のことをちゃんとしなきゃ。
あたしはぎゅっと、くちびるをかみしめた。
学校を出て、住宅街を十分くらい歩いて。踏切をわたったら、左に海が広がる。
白くって凍っていそうな水平線。青ざめている砂浜。
ヤシの木がならんでいて、夏は海水客でにぎわう海水浴場も、今は犬の散歩しているおばさんくらいしかいない。
「うあ~っ! 海なんて、久しぶりに来た~っ!! 和泉ぃ~、砂の城つくろ~っ!」
スニーカーとくつ下をぬいで、はだしになろうとした誠のスタジャンを、あたしは、あわててつかんだ。
「待って、誠。きょうは遊びに来たんじゃないの」
だって、近場で人にきかれないとこって、海以外に思いつかなかったんだもん。
「え~? せっかくの海なのにもったいな~い。なにぃ~?」
にこ~って笑った誠が、あたしの顔を見て、笑みを引っ込めた。
「……あのね。あたし、きのうの返事しなきゃ……」
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