《4》 告白の後先 6 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 6

  01, 2019 22:57
20190209



 その手のひらに、力がこもる。


 ……なんで……?


 どうしよう。胸、ジクジク痛い。


「葉児?」


 誠が声をかけると、パッと、ヨウちゃんの右手が開いた。

 その手は、あたしの次の、山下さんのところにうつってく。


「な~んだ。和泉、ぜんぜんフツ~に踊れるじゃん!」


 誠といっしょにステップを踏んでいたら、後ろで誠がにへって笑った。


「てか、すげ~うまい」


 右手を上にあげて、あたしくるっと回って、誠とおじぎ。


 どうしてだろう……。


 足がステップを踏むたびに、ヨウちゃんの声が頭の奥で再生される。

 低い、やわらかい声。奥からふつふつ熱がわいてて、だけどそれを、ベールでやさしく包んでる。


 冷たいなんてウソ。

 ヨウちゃんは、やっぱりやさしい。


 あたし……どうしてもヨウちゃんが好きだよ……。




* * *



「和泉ぃ。きょう、オレんち遊びに来ない~?」


 放課後。教室でランドセルを背負ってたら、誠がランドセルのふたをパタパタさせながら、やってきた。


「日曜、買い物につきあってくれたお礼にさ~、うちでホットケーキパーティーしようよ。生クリームのホイップと、フルーツ缶、今、冷蔵庫にあるからさ~」


 うわっ! それ、すっごい楽しそうっ!


「行くっ!」って言いかけて、あたし口をつぐんだ。


 ママに言われたっけ。

 告白してくれた人に、好きな人がいることを伝えなきゃダメだって。


「誠。ちょっと、きょう、寄り道して」

「は? う、うん。もちろん、おっけ~」


 ニコニコ笑いながら、誠があたしについてくる。

 教室の後ろのドアに向かって歩きながら、あたしは、一番後ろの席を流し見した。

 リンちゃんたちがまわりにいないと、ヨウちゃんの席って、ホント静か。顔をうつむけて、ヨウちゃん、ランドセルに教科書をつめこんでる。


 まずは、自分のことをちゃんとしなきゃ。


 あたしはぎゅっと、くちびるをかみしめた。




 学校を出て、住宅街を十分くらい歩いて。踏切をわたったら、左に海が広がる。

 白くって凍っていそうな水平線。青ざめている砂浜。

 ヤシの木がならんでいて、夏は海水客でにぎわう海水浴場も、今は犬の散歩しているおばさんくらいしかいない。


「うあ~っ! 海なんて、久しぶりに来た~っ!!  和泉ぃ~、砂の城つくろ~っ!」


 スニーカーとくつ下をぬいで、はだしになろうとした誠のスタジャンを、あたしは、あわててつかんだ。


「待って、誠。きょうは遊びに来たんじゃないの」


 だって、近場で人にきかれないとこって、海以外に思いつかなかったんだもん。


「え~? せっかくの海なのにもったいな~い。なにぃ~?」


 にこ~って笑った誠が、あたしの顔を見て、笑みを引っ込めた。


「……あのね。あたし、きのうの返事しなきゃ……」




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