
とたん。さっきの屋上での光景が、頭にわっと、よみがえってきた。
冷たく光った琥珀色の目。
ヨウちゃん、あたしなんかお荷物だって……。
涙がこみあげてきて、前がぜんぜん見えなくなった。
さしだされた手を取れなくて、あたし、その場にしゃがみこんだ。
「わ~っ! 先生~っ!! タイム、タイム! 和泉がコケた~っ!! 」
大岩の大声で、体育の恩田おんだ先生があわてて音楽をとめる。
音楽が切れると、クラスメイトたちのざわめきが大きくきこえ出した。
た、立ちあがらなきゃ!
あたしのせいで、みんながとまってるっ!
だけど……だけど……目の前の琥珀色の目を、見返すのが怖い。
すっと大きな手のひらがのびてきて、あたしの右手首にふれた。ビクッとあたしの手首、震える。
怖い。
ヨウちゃん、また、あきれてる……。
そろそろ顔をあげたら、琥珀色の目がゆがんでた。
え……? 涙の粒がうかんでる。
ぐっと口をひきむすんで、ヨウちゃんはあたしの手首をつかんだ。
引き起こされる。

「いいか~? また、音楽はじめるぞ~」
先生がCDプレーヤーのスイッチを入れた。スピーカーから明るい音楽が流れだす。
ヨウちゃんがあたしの背中に立った。
みんながステップ踏んで踊りだしたから、あたしも踊らなきゃ。
だけどわかんない。手も足も動かない。
「……綾。こっちの手、肩の上。左は下」
後ろからふっと右手をつかまれて、肩の上にあげられた。
「だいじょうぶだ。おまえ、妖精のダンスは踊れてたじゃねぇか。これは、あれよりぜんぜん単純だぞ」
そんなやさしい声……今、出さないでよ……。
あたしの左手の下に、ヨウちゃんの左手がそえられる。
あったかい。
浅山でにぎっていた手。
「右足、前。もういっかい右足。次、左足」
頭の後ろから、ヨウちゃんのささやきが、静かにふってくる。
足が軽くなって、勝手に動き出した。
「また、左足。右右、左左、右左、右左。前。後ろ。くるっと回って……」
ヨウちゃんが右手を上にあげる。その手に取られて、あたしの右手も上にあがって。
あたしはくるっと一回転。
「おじぎして、おしまい」
みんな、次の人に入れかわってる。
あたしもヨウちゃんの後ろを見たら、誠が手をさしだしていた。
男子は、背の順でならんで輪になっているから。六年で一番、背の高いヨウちゃんの後ろは、一番、背の低い誠。
ヨウちゃんの手をはなして、誠の手を取ろうとしたら。
くんと右手を引かれた。
……え?
ふり向いたら、ヨウちゃんがまだ、あたしの右手をつかんでる。
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