《4》 告白の後先 5 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 5

  25, 2019 21:37
20190209




 とたん。さっきの屋上での光景が、頭にわっと、よみがえってきた。

 冷たく光った琥珀色の目。


 ヨウちゃん、あたしなんかお荷物だって……。


 涙がこみあげてきて、前がぜんぜん見えなくなった。

 さしだされた手を取れなくて、あたし、その場にしゃがみこんだ。


「わ~っ! 先生~っ!! タイム、タイム!  和泉がコケた~っ!! 」


 大岩の大声で、体育の恩田おんだ先生があわてて音楽をとめる。

 音楽が切れると、クラスメイトたちのざわめきが大きくきこえ出した。


 た、立ちあがらなきゃ!

 あたしのせいで、みんながとまってるっ!

 だけど……だけど……目の前の琥珀色の目を、見返すのが怖い。


 すっと大きな手のひらがのびてきて、あたしの右手首にふれた。ビクッとあたしの手首、震える。


 怖い。


 ヨウちゃん、また、あきれてる……。


 そろそろ顔をあげたら、琥珀色の目がゆがんでた。


 え……? 涙の粒がうかんでる。


 ぐっと口をひきむすんで、ヨウちゃんはあたしの手首をつかんだ。


 引き起こされる。


20190225




「いいか~? また、音楽はじめるぞ~」


 先生がCDプレーヤーのスイッチを入れた。スピーカーから明るい音楽が流れだす。

 ヨウちゃんがあたしの背中に立った。

 みんながステップ踏んで踊りだしたから、あたしも踊らなきゃ。

 だけどわかんない。手も足も動かない。


「……綾。こっちの手、肩の上。左は下」


 後ろからふっと右手をつかまれて、肩の上にあげられた。


「だいじょうぶだ。おまえ、妖精のダンスは踊れてたじゃねぇか。これは、あれよりぜんぜん単純だぞ」


 そんなやさしい声……今、出さないでよ……。


 あたしの左手の下に、ヨウちゃんの左手がそえられる。


 あったかい。

 浅山でにぎっていた手。


「右足、前。もういっかい右足。次、左足」


 頭の後ろから、ヨウちゃんのささやきが、静かにふってくる。

 足が軽くなって、勝手に動き出した。


「また、左足。右右、左左、右左、右左。前。後ろ。くるっと回って……」


 ヨウちゃんが右手を上にあげる。その手に取られて、あたしの右手も上にあがって。

 あたしはくるっと一回転。


「おじぎして、おしまい」


 みんな、次の人に入れかわってる。

 あたしもヨウちゃんの後ろを見たら、誠が手をさしだしていた。

 男子は、背の順でならんで輪になっているから。六年で一番、背の高いヨウちゃんの後ろは、一番、背の低い誠。

 ヨウちゃんの手をはなして、誠の手を取ろうとしたら。

 くんと右手を引かれた。


 ……え?


 ふり向いたら、ヨウちゃんがまだ、あたしの右手をつかんでる。



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