
ハッとして、ほおをぬぐう。
あたし……言っちゃった……?
覚悟なんて、まだぜんぜんできてないのに……。
「……おまえにだけは、言われたくなかったよ」
ズンと、心臓に矢が刺さった。
「……なんで? なんで、そんなこと言うのっ!? あたしが、お荷物だから? あたしは勝手に妖精になったりして、いっつもヨウちゃんに迷惑をかけてばっかりだから? だから、好きになられたらやっかいなのっ!? 」
「……自分でよく、わかってんじゃねぇか」
ザラザラの声。
「お荷物に決まってんだろ? アホっ子で、ひとりじゃなんもできなくて。いつもオレに尻ぬぐいばっかさせて。そんなヤツを、どうしてオレが、好きになるんだよ?」
「……ひどい……」
キツくて、きびしいヨウちゃん。
だけど、きびしいヨウちゃんの下には、やさしいヨウちゃんがいる気がしていた。
やさしいヨウちゃんが、あたしに笑ってくれるから、あたしはきびしいことを言われても、傷つかないでいられた。
「ヨウちゃんやっぱり、上からだ。あたしのことを見くだしてるんだ。誠はちゃんと、あたしを、対等に見てくれてるもん。好きだって言ってくれたもんっ!」
「……え?」
琥珀色の目が横にぶれる。
「……いつ?」
「日曜。ふたりで買い物行ったとき」
ヨウちゃんはうつむいて、歯をかみしめた。
「なら……オレなんかに告白してる場合じゃねぇだろ? 誠とつきあえよ」
「な、なんでよっ!? なんでそんなこと、ヨウちゃんに言われなきゃなんないのよっ!? 」
「誠は……いいヤツだぞ」
「そんなこと、知ってるよっ!」
あたしはパッとかけだした。
ヨウちゃんの横をすり抜けて、屋上のドアを抜けて。
階段を三階へかけくだった。
底抜けに明るい音楽が、校庭に流れてる。
五時間目になったら、どんどん外は寒くなってきて。
みんな、ジャージにくるまって、外に出るのを嫌がってたくらいなのに。
音楽だけをきいていると、ぽかぽか、春の昼下がりみたい。
曲名は「オクラホマ・ミキサー」。
卒業キャンプのときに、キャンプファイヤーで踊るフォークダンスなんだって。
今はその練習中。
クラスメイトが全員、輪になって。男女ペアで、女子が前で、男子が後ろ。ふたりで手を取りあって、軽いステップ踏んで踊っていく。
くるっとまわって、おじぎをしたら、女子は後ろの男子と入れかわり。
明るいリズムの中で、どんどんペアがかわってく。
最初は寒いからイヤがっていた女子たちも、「中条君と踊れる~」って、もりあがりだした。
順にひとりずつ男子がまわってくるんだもんね。だれでも、クラスの男子全員と踊れるんだ。
「イテっ! 和泉、足踏むなっ!」
窪が右足をおさえて、とびあがった。
「え? あ……ごめんね……」
くるって回ろうとしたら、なんでか手首がねじれてる。
「イタタタタ。手、はなせっ! 手っ!」
あ……また、まちがえた……?
相手がかわっていくたびに、あたしとペアになった男子は、「ぎゃ~」とか「イテぇ」とか悲鳴をあげる。
「さ……さすが。和泉。究極の運動オンチ……」
「ヤバイ、オレ次、和泉だ。どうしよう、病院行きにされたら……」
男子たちの声、丸きこえなんだけど。
でも、「右、左、右、左」って言うけどさ。右足ってどっちだっけ……?
くるっと回っておじぎしたら、ゴチっと大岩の頭にあたしの頭がぶつかった。
「ぎゃ~っ! い、和泉の頭突きくらった~っ!! 」
「ご、ごめん……」
次の男子をぼ~っと見あげたら、大岩の後ろで、ヨウちゃんがあたしを見おろしてた。
ビクッと心臓が痙攣する。
……次、ヨウちゃんと踊るの……?
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