《4》 告白の後先 3 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 3

  19, 2019 20:50
20190209



「……ヨウちゃん?」


 あたしが呼びかけても、ヨウちゃんは顔をあげない。

 壁に背でもたれて首をたれ、足をのばして。腕を組んでる。


「ねぇ、ヨウちゃんてば。掃除の時間がはじまってるよ」


 肩に手を置こうとして、あたしはその手を引っ込めた。

 首を左にかたむけて、うつむいたヨウちゃんのこめかみから、汗がふきだしている。

 つむってる目の下には、黒いクマ。ぎゅっと眉をしかめて、ハアハア、息が苦しそう。


 足元を見て、後ずさった。


 黒いモヤがある。


 座っているヨウちゃんの足の下。

 モヤの形は、ラグビーボールを横に倒したみたい。その中に黒い丸。


 ……あの目っ!!

 お父さんを倒した目っ!!


「よ、ヨウちゃんっ!?  ね、ねぇ。なにっ!?  なんなの、これっ!? 」


 あたしに肩をゆさぶられて、ヨウちゃんはうっすらと目を開けた。


「……え? 綾……?」


「こ、これって、アレでしょっ! 誠を襲ったモヤっ!!  ねぇ、どうして、これがヨウちゃん、とこに……」


 あたし、ヨウちゃんの両肩に両手を置いて、馬乗りになってた。


 だって、怖いっ! 怖いっ!!  怖いよっ!!


「ヨウちゃん、どうして教えてくれなかったのっ? なにが起こってるのっ!? 」


「……綾。落ちつけ」


 まだ前髪を汗でぬらした、ぼんやりした顔で、ヨウちゃんは、あたしの手首をつかんで、自分の肩から引きはがした。


「落ちつけるわけないでしょっ! だから、ヨウちゃん、最近、ずっとおかしかったんだっ!!  もしかして、ヨウちゃんも、あの夢見たのっ !? お父さんが襲われる夢! ヒメのタマゴから黒いモヤがあがって、この目がお父さんを……。なんで? ヨウちゃんには関係ないのに……。まるで……まるでこんなの……呪いみたい」


 両目から涙があふれて、ヨウちゃんの顔がよく見えない。


 あたしの手首を硬くつかんだまま、ヨウちゃんはハァとうつむいた。


「……知らねぇよ、そんな夢。だいたいモヤとか、目とか、どこにあるんだよ」


 涙でぐちゃぐちゃの目をこすったら、ヨウちゃんの足元からモヤは消えていた。


「……え? で、でもっ!」


 壁でズルズル背中をずりながら、ヨウちゃんが立ちあがる。


「気にすんな。オレは、ただ寝てただけだ。ほら、教室にもどるぞ」


「ウソっ! 寝てるだけだったら、どうしてそんなに、つらそうなのっ!?  お願い、ヨウちゃん! あたしには隠さないでっ! だって、あたしは知ってるんだよっ!?  ヨウちゃんがフェアリー・ドクターだってことも。お父さんのことも。黒いタマゴのこともっ! あたし、リンちゃんたちといっしょに、されたくないっ!! 」


「……知ってるからこそ、教えたくないことだってあるだろ……?」


「……え?」


 あたしが顔をあげると、ヨウちゃんは顔をそむけて、手首をはなした。


「ウソだよ。ホントになんともねぇって。寝てただけ。おまえ、ひとりで勝手にもりあがるな」


 背を向けて、ドアのほうへ歩きだす。


「……待ってよ~」


 涙がぼろぼろと、ほおを伝う。


 ヨウちゃん、ぜったい言わないつもりなんだ。

 なにがあっても、自分だけで解決しようとしてるんだっ!


「だって、だって~。あたし、心配なんだもん~。ヨウちゃんのことが好きだから、そんなヨウちゃん、見ちゃったら、心配で、心配でしょうがないんだもん~」


 顔をあげて、わんわん泣きじゃくるあたしを、ヨウちゃんは立ちどまって、見おろしている。


「……綾……」


 眉をしかめて、ヨウちゃんがうつむいた。


「なんだよ。……それって……告白……?」



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