《1》記憶の実、ころり 6 - ナイショの妖精さん1
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《1》記憶の実、ころり 6

  22, 2018 22:31
2018091201



 たぶん、小さいころに見た夢。
 だけど、セリフまでぜんぶ覚えてる夢なんて、ほかにない。

 だからあたしは信じてる。

 あたしは妖精の子。

 いつか、こんな生きづらい世界から抜け出して、妖精の世界に帰るんだっ!



「おい、和泉っ!! 」


 低い声に呼ばれて、ハッとふり返った。

 いつの間にか、二十メートルくらい、花畑を進んでた。

 登山道のところで、木の幹に片手をついて、中条がこっちを見ている。
 琥珀色の目と、目が合う。


 ……あの目……っ!



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 胸の奥で、なにかがカチッとつながった。

 さっきまで声しか覚えていなかった夢の中の人に、パズルのピースみたいに、琥珀色の目があてはまる。

 だけどすぐに、あたしの頭は「?」マークでいっぱいになった。


「あ、あれ? なんで? あたし、なにが? え……中条……?」


 ジーンズをはいた長い足が、ズカズカ花畑に入ってくる。


「うわっ !? なんだこれ? イタっ!」


 ぶつぶつぼやきながら、豪快に花を踏んでくる。

 と思ったときにはもう、中条は目の前にいて、足元の花をにらんでいた目が、キッとあがって、こっちを見た。


「和泉っ !! こんなとこで、なにやってんだっ! おまえが迷子になったら、怒られるのは班長のオレなんだぞっ!」


 ぐ……怖い……。


 一瞬あった「昔どこかで見たような感じ」が、あっという間にかき消える。


「ほら! さっさと来いっ !! もとの道にもどれっ!」


 中条は言うだけ言うと、あたしから背を向けて、登山道にもどろうとする。


「あ……ちょ、ちょっと待ってっ!」


「……は?」


 ふり返る石膏みたいなほお。左眉がピクついていて、すごく怖い。


「……だって……」

 妖精を見たかもしれないのに……。


 なんて言えない。

 さすがのあたしでも、わかる。
「妖精がいる」って信じてること。「自分が妖精だ」って信じてることが、ふつうの六年生にとって、幼稚な考えだって。

「その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう」なんて言われなかったら、あたしだってもう、信じてなかったかもしれない。


「……ほら」


 手を、大きな硬い手につかまれて、ひゃっと心臓がとびはねた。


「えっ!?  ええっ!? 」


 何度も見たけど、見まちがいじゃない。

 あたしの右手を、ガッチリ包んでいるのは、中条の左手。


「葉っぱで足痛いのはわかるけど、花んとこ抜けるまでは、がまんして歩け」


 早口で言って、中条が歩き出す。


 あたしは、自分を引っぱっている人間の、高い位置にある大きな肩を見あげた。白いTシャツから、肩甲骨のラインがうかびあがってる。


 もしかしてこの人、あたしのこと「足が痛くて動けない」って思った……?



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