
「和泉ぃ」
教卓のほうから、誠がペタペタ歩いてきた。
「きのう、お母さんに、あのヘアピンあげたぞ~。お母さん、すごいよろこんでた。ありがとなぁ~」
へらっへらの、のんびり笑顔。
あ……なんか、ほんわ~。
「ホント~? よかった~っ! 日曜日、がんばって、選んだかいがあったね~っ!! 」
「えっ!? 綾って、マジで誠と、買い物行ったのっ!? 」
「あ……うん。楽しかったよ~っ! 誠のサングラス姿が、ホンットおもしろいのっ!」
「魔女っ子の和泉も、なかなかだったぞ~」
ふたりでケラケラ思い出し笑いしてたら、有香ちゃんも本から顔をあげた。
「なんか、わたし、誠のほうが綾ちゃんと合う気がする……」
「う、うちも……そう思う」
「え~っ!? なになに~?」
「やめて~。誠、この話、深くつっこまないで~っ!! 」
あたしひとりで、「ぎゃ~」ってなってたら、また、女子たちが教室に入ってきた。
って、リンちゃんと、青森さんっ!
あたしの心臓、ビックビック。
まな板の上の魚みたい。
リンちゃんの顔をそ~っと見たら、ネコみたいな吊り上がり目に、涙がうかんでた。
青森さんも、太い眉をさげ、目を赤くして、くちびるをかみしめてる。
「……どうだった……?」
女子たちの輪の中に、ふたりはふら~っと吸い込まれてく。
「ダメだった……」
「ふたりとも?」
「うん。なんか、中条君。ひとりでいたいんだって……」
腰の力が抜けちゃって。あたし、イスにへたりこんだ。
リンちゃんが鼻をすすりながら、ほうきで教室をはいている。
青森さんは校庭掃除だから、外に行っちゃった。
あたしは、バケツでぞうきんをしぼりながら、リンちゃんが鼻のすする音をきいている。
告白って、こういうことなんだ……。
自分の気持ちを相手に伝えたって、相手が応えてくれるとはかぎらない。
もし、あたしの気持ちなんか、いらないって言われちゃったら。
あたしはこの気持ちを、どこにやったらいいんだろう……?
「なぁ、それで葉児はどこに行ったんだ?」
教室の後ろから、大岩の声がした。
見たら、後ろに貼られた掃除当番表のところに、男子たちがたむろしてる。
「あいつも、同じ教室掃除だろ?」
「だれか、見たヤツいる?」
「さぁ~? 昼休みから見てないけど」
ヨウちゃん……ホントにどうしちゃったの?
だって、ヨウちゃんって、掃除をサボるような人じゃない。
どんなにエラそうにふんぞり返っていたって、いつだって、あたりまえの顔をして、学校の決まりは守ってる。
あたしは、バケツにぞうきんをかけた。
男子やリンちゃんたちに気づかれないように、開いた教室のドアから、カニ歩きで廊下に出ていく。
出たら、パッとウサギみたいに、走りだした。
六年生の教室のある三階の廊下から、階段を一階分あがると、屋上のドアにつく。
キイと、アルミ枠のドアを開けると、外は肌寒かった。
きのうとかわらない冷たい雲が、空一面をおおってる。
だれもいない屋上を、キョロキョロと見まわして。
壁にそってまわったら、琥珀色の髪の男子が、壁に寄りかかって座っていた。
ふっと胸が軽くなる。
なんだ……こんなとこで寝てたんだ……。
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