《4》 告白の後先 2 - ナイショの妖精さん2
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《4》 告白の後先 2

  13, 2019 20:52
20190209



「和泉ぃ」


 教卓のほうから、誠がペタペタ歩いてきた。


「きのう、お母さんに、あのヘアピンあげたぞ~。お母さん、すごいよろこんでた。ありがとなぁ~」


 へらっへらの、のんびり笑顔。


 あ……なんか、ほんわ~。


「ホント~? よかった~っ! 日曜日、がんばって、選んだかいがあったね~っ!! 」

「えっ!?  綾って、マジで誠と、買い物行ったのっ!? 」

「あ……うん。楽しかったよ~っ! 誠のサングラス姿が、ホンットおもしろいのっ!」

「魔女っ子の和泉も、なかなかだったぞ~」


 ふたりでケラケラ思い出し笑いしてたら、有香ちゃんも本から顔をあげた。


「なんか、わたし、誠のほうが綾ちゃんと合う気がする……」

「う、うちも……そう思う」


「え~っ!?  なになに~?」

「やめて~。誠、この話、深くつっこまないで~っ!! 」


 あたしひとりで、「ぎゃ~」ってなってたら、また、女子たちが教室に入ってきた。


 って、リンちゃんと、青森さんっ!


 あたしの心臓、ビックビック。

 まな板の上の魚みたい。


 リンちゃんの顔をそ~っと見たら、ネコみたいな吊り上がり目に、涙がうかんでた。

 青森さんも、太い眉をさげ、目を赤くして、くちびるをかみしめてる。


「……どうだった……?」


 女子たちの輪の中に、ふたりはふら~っと吸い込まれてく。


「ダメだった……」


「ふたりとも?」

「うん。なんか、中条君。ひとりでいたいんだって……」


 腰の力が抜けちゃって。あたし、イスにへたりこんだ。







 リンちゃんが鼻をすすりながら、ほうきで教室をはいている。

 青森さんは校庭掃除だから、外に行っちゃった。

 あたしは、バケツでぞうきんをしぼりながら、リンちゃんが鼻のすする音をきいている。


 告白って、こういうことなんだ……。


 自分の気持ちを相手に伝えたって、相手が応えてくれるとはかぎらない。

 もし、あたしの気持ちなんか、いらないって言われちゃったら。

 あたしはこの気持ちを、どこにやったらいいんだろう……?


「なぁ、それで葉児はどこに行ったんだ?」


 教室の後ろから、大岩の声がした。

 見たら、後ろに貼られた掃除当番表のところに、男子たちがたむろしてる。


「あいつも、同じ教室掃除だろ?」

「だれか、見たヤツいる?」

「さぁ~? 昼休みから見てないけど」


 ヨウちゃん……ホントにどうしちゃったの?


 だって、ヨウちゃんって、掃除をサボるような人じゃない。

 どんなにエラそうにふんぞり返っていたって、いつだって、あたりまえの顔をして、学校の決まりは守ってる。


 あたしは、バケツにぞうきんをかけた。

 男子やリンちゃんたちに気づかれないように、開いた教室のドアから、カニ歩きで廊下に出ていく。

 出たら、パッとウサギみたいに、走りだした。



 六年生の教室のある三階の廊下から、階段を一階分あがると、屋上のドアにつく。

 キイと、アルミ枠のドアを開けると、外は肌寒かった。

 きのうとかわらない冷たい雲が、空一面をおおってる。

 だれもいない屋上を、キョロキョロと見まわして。

 壁にそってまわったら、琥珀色の髪の男子が、壁に寄りかかって座っていた。

 ふっと胸が軽くなる。


 なんだ……こんなとこで寝てたんだ……。




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