
「やだぁっ!! 綾、スゴイじゃないっ! さすがは、ママの子っ! ね、顔はいいんだから。きょうみたいにがんばってオシャレすれば、ちゃんとモテるのよっ!! で、だれ? クラスの子?」
誠だってば。ママも幼稚園からよく知ってる、誠だよ。
だけど、今、あたしが話したいのは、自分がだれに告白されたかってことじゃなくって……。
「あたしの話はいいの! あたしはママの話がききたいのっ! ねぇ、ママは告白されて、そのときカレシがいなかったら、その、告白してくれた人とつきあったの?」
「え……? ああ、そうねぇ~」
ママは、あごにひとさし指を置いて、天井をあおいだ。
「だれでもってことは、なかったわよ。その、告白してくれた人のことを、自分でも『この人いいな』って思えなきゃね」
この人いいな……って。
お皿についてく泡を見ていたら、誠じゃなくって、ヨウちゃんの顔が浮かんできた。
あ~あ。あたしは、だから……。
「『いいな』とは思うんだよ。告白してくれた人のこと、『いい人だな』ってのは、わかってるんだ。『いっしょにいたら、楽しいんだろうな』とも思う。……だけどさ。べつにもっと……『いいな』って人がいたら……」
「……綾。だれか好きな人がいるの?」
あたしの肩、ビクッととびはねる。
「え……えっと……」
ヤダ。なんか、顔熱い。
ママは腰に手をあてて、じっとあたしの顔をのぞきこんでくる。
「そうね。そういう場合は、まず、自分の気持ちを整理しなきゃダメね。好きな人がいることを、告白してくれた人に伝えて。それから、想いの人に、自分の気持ちを、伝えるべきじゃない?」
えっ!? ええっ!?
「ヤダ! そんなの考えらんないっ!! あ、あたしが告白するなんて、ムリっ! ぜっったいにムリだよ~っ!! 」
「ま~。なっさけない」
ママはカチャっと、コーヒーメーカーからポットをはずした。湯気の立つコーヒーを、マグカップにそそいでいる。
「綾、告白なんてね。だれでも勇気をつかうものなの。あんたがそんなんじゃ、きょう、がんばって想いを伝えてくれた、誠君に申し訳ないんじゃない?」
「ま、ま、ま、誠っ!? ママっ! どうしてそれをっ!? 」
「バカね~。小学生の娘が日曜の昼間に、だれと遊びに行くかくらい、親なんだから把握してるわよ。だいたい、きのうの夜、家電に、誠君から電話がかかってきてるんじゃない。それで次の日、あんたが遊びに行くって言うんだから、たいていの想像はつくわ」
「……う」
はずかしすぎ。名前を出されたら、恋愛相談なんて、急にリアルになっちゃうじゃん。
「それで。好きな人のほうは、中条の葉児君ね」
ぎょえ~っ!!
「まぁ、最近、あんたがしょっちゅう葉児君の家に、出入りしてるのは知ってるから。ママもたまに、中条さんに電話して、うちの子がすみません~って話は、してるわけよ。あんたも面食いだとは思ってたけど。また、えらい高望みね~」
「や、や、や、ヤダぁ~っ!! ママ、もうやめて~っ!! 」
顔から、火噴きそう。
あたし、しゃがみこんで耳に両手。洗剤の泡が、ふわふわ宙に舞っちゃってる。
「とにかく、綾。伝えるべき人に、伝えなきゃならないことを、ちゃんと伝えなさい」
鼻先に、湯気があがった。
見たら、お砂糖と牛乳のたっぷり入ったコーヒーミルクが目の前にあった。
ママが、マグカップに入れてくれてる。
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