
それから、がっちり三十分かけて。誠はう~ん、う~んって、なやんで。
お母さんに、ヘアピンをひとつ選びあげた。
ネックレスや指輪より、倉庫仕事にもつけて行けそうなピンがいいんだって。
プレゼント用に包装してもらっている誠をレジにのこして、あたしは先に店から出た。
店の壁に寄りかかって、ショッピングモールの通路を見ていたら、このあたりって、カップルばっかり。
腕を組んで歩くふたりは、ニコニコ笑って幸せそう。
「つきあう」って……どんなだろ……。
やっぱり、ふつうに会話したり、遊ぶのとはちがうのかな?
そういえばあたし、ヨウちゃんと、浅山以外に行ったことない。
会うのはいつも、お父さんの書斎か、浅山でだし。話すのだって、妖精のこと。
「……ヨウちゃんも、カノジョができたら、いつもよりがんばった服着て、こういうところに来るのかな……?」
ふたりでひとつのジェラート食べてさ。べたべた肩とか抱いちゃったりして。
ハァって、ため息をついたら、あたしのミュールの横に、誠のスニーカーがならんでいた。
「えっ!? あ、あれ? 誠、もう、包装してもらったの?」
ヤダっ! あたし今、声出してたっ!
「……なぁ、和泉。オレにしない?」
「……え?」
誠の声、小さい。お店の前の壁で。あたしとならんで。オーバーオールのポケットに両手をつっこんで、うつむいてる。
「だってオレ、和泉といると楽しいもん。和泉だって、いつも怒ってばっかのヤツといるより、オレと笑ってたほうが、ゼッタイいいって」
……誠……?
「……それって、ラブ?」
誠の横顔を下からのぞきこんだら、誠のほおが、リンゴみたいに赤く染まった。
「……うん」
きゅっと目を閉じて、口元へにゃ。
う……。誠……カワイイ……。
●
生まれてはじめて、男子から告白された。
ミニスカートから、部屋着のスウェットに着がえて。
あたし、ダイニングのイスで、ぼぉ~。
「綾、あんたきょう、西湾のショッピングモールに行ってきたんでしょ? いいもの、買えた?」
キッチンで夕飯のお皿を洗いながら、ママがたずねてきた。
「うん~。なんにも~……」
「あら、めずらしいじゃない。いつもは、ピンとか髪ゴムとか、なにかと買って来るのに」
「……うん~」
両腕を前に投げだして、あごをテーブルに乗せていたら、お皿を洗うママの姿が、お手伝いをする誠の姿と重なった。
「……ママ。のこりのお皿、あたしが洗おっか?」
うんしょとイスから立ちあがると、ママの目、キラキラキラ。
「え? あらホントっ!? じゃあ、お願い」
ママからスポンジを借りて、チュッと洗剤をつけて。あたし、お皿をごしごし。
冷蔵庫に用があるとき以外で、キッチンに立つのって、久しぶりかも。
「ねぇ~。ママさ~。あたしぐらいのときから、モテたんでしょ~? 男子から告白されたとき、なんて返事してたの~?」
お茶碗をこすりながら、たずねたら、ママが「えっ?」っと声をあげた。
だってさ。
誠ってば、「返事はすぐじゃなくていい」って言うんだもん。
あたし、どうしたらいいんだろ……?
「ウソ、綾。もしかして告白されたのっ!? 」
セットしてたコーヒーメーカーもそっちのけで、ママがあたしに身をのりだしてくる。
「う……うん……」
次のページに進む
前のページへ戻る

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト