
あたし、なんにも言えなかった……。
なんでもかんでも、「自分たちががんばれば、なんとかなる」なんて、ただのキレイごと。
ヨウちゃんのお父さんを、死に追いやったかもしれないタマゴ。
そんなタマゴに関われば、自分たちの身だってあぶなくなる。
もういっそ、見なかったことにして、忘れちゃえばいいのかな……?
「……和泉?」
顔をあげると、誠が首をかしげて、あたしの顔をのぞきこんでいた。
「へ~き? ず~っとだまっちゃってたけど、お腹でも痛いの~?」
「え? え~っ? ちがうよ~!!」
のこりの肉まんにかぶりついたら、いつのまにか冷えきってた。
「ごめん、ごめん。誠がおかしなこと言うから、ヨウちゃんが怒ったときのことを思い出しちゃって」
「ふ~ん。やっぱ葉児って、怒るんだ~」
「あ。ち、ちがうよ? べつに、誠とあたしがふたりでいるから、怒るわけじゃなくてね。ほら、あたしって、アホっ子だからさ~。うっかり、アホなこと言っちゃって~」
「え~? 和泉がちょっとうっかりしただけで、葉児って、怒るの? それって、おかしくない? ふつうは、お互い、対等じゃん?」
ハムスターみたいに、肉まんをほっぺたに、いっぱいつめこんで。誠が眉をひそめた。
「同じ歳なのに、上下関係ができてるみたいで、オレ、そ~ゆ~のヤダな~」
上下関係かぁ……。
そうかなぁ? よくわかんないけど。
エスカレーターで二階にあがったら、迷路みたいにあちこち曲がった通路の左右に、お店がずらっとならんでた。
雑貨屋さんにメガネ屋さん。コーヒー屋さんに、キッズ向けの服屋さん。
人も多くって、ベビーカーを押したお母さんに、バタバタ走りまわる幼児。腕を組んで歩く、カップル。いろんな世代のいろんな人が歩いてる。
右側に帽子屋さんが見えてくると、誠が走りだした。
「あ~、和泉、見て見て~っ!! あれ、おもしれ~」
たしかに、店頭にかざられてる帽子が、ヘン。シルクハットなんだけど、ケーキみたいな円柱の部分が、すご~くなが~い。しかも、ピンクの豹柄。
誠、まよいなくその帽子の前にとんでいって、自分の帽子をとると、スパッとシルクハットをかぶった。
「ヤダ、誠ってば、インチキ手品師みたい~っ!! 」
お腹を抱えて、笑っちゃった。
となりにかざってあった、豹柄のつえまでくるくるまわして、誠ってばノリっノリ。
店内を見まわしたら、ニット帽や、ボアでほこほこのエスキモー帽や、オシャレでカワイイ帽子がいっぱいだった。誠がかぶってるヤツは、お客さんの目を引くために置かれてるのかな。
「和泉ぃ~。これ、かぶってぇ~」
次に誠が見つけてきたのは、三角コーンみたいにとんがった、革の帽子。
「え~っ!? これって、魔女の帽子~?」
ファンタジー映画から抜け出てきたみたい。
頭にかぶって、鏡をのぞいてみたら。あたしの頭、小さすぎ。大きな帽子に目までうもれそう。
「わははは、和泉が魔女っ子だ~っ!! チョ~似合ってる~!!」
「ええっ!? 似合ってないもん、ぶかぶかだし~」
誠の声がおっきいから、まわりのお客さんがあたしをふり返って、くすくす笑う。
は、はずかし~。

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