
こうなったら、ヤケっぱち!
とにかく話題を、押しまくれ~っ!!
「したよ~。ヤダ、わすれちゃったのっ!? あのさ、誠。安くってもカワイイアクセサリーって、わりとあるんだよ。お母さん、誠があげたものなら、そういうのでも、よろこんでくれるんじゃない?」
「あ~、うん~。まぁ~」
「あたし、いいお店知ってるよっ! 教えてあげよっか? ねぇ、有香ちゃん、真央ちゃんも、今度の日曜日……」
「ちょっと待て。うちはパス」
あたしの顔の前に、真央ちゃんの手のひらがのびてきて、会話をさえぎった。
「うちらもいっしょに、誠の買い物につきあえってんだろ? 悪いけど、日曜は塾」
「わたしも、バレエの発表会の練習があって……」
え? え~っ!?
「だから、綾。習い事がなくて、毎日ヒマなのは、綾と誠ぐらいなんだよ。行くなら、ふたりで行きな」
「で、でも、ふたりっきりで買い物って。なんかさ……」
「中条君、きいたっ!? 和泉さん、日曜日に誠とデートだってぇ~っ!! 」
教室の後ろで、リンちゃんの声がしたから、あたし「ぎゃっ 」ってとびあがった。
リンちゃんてば、ものすごい地獄耳っ!
「……え……?」
もそっと、ヨウちゃんが自分の腕から頭をあげる。
琥珀色の前髪が、寝ぐせで半分あがってて、くしゃっとなってる。
ぼ~っと教室を見まわして、琥珀色の目があたしでとまった。
「前から思ってたんだけどさ~。ふたりって、お似合いじゃない? 背もそんなちがわないし~。頭のレベルもいっしょだし~」
「ダメだって、アホなんて言っちゃっ! リンってば~」
青森さんが、キャッキャって笑ってる。
あっそ。ど~せ、アホですよ。
琥珀色の目が一瞬ゆがんだ。
って思ったら、ヨウちゃんは視線をそらして、ひじをたてて顔を隠した。
「……ふ~ん。たしかに、お似合いだな」
ズン。
言葉が胸につきささる。
ヨウちゃんはもう、顔もこっちに向けてくれない。
「……和泉ぃ? 本気で行くの?」
気づいたら、誠が眉をひそめて、あたしの顔をのぞきこんでいた。
「え? 行くよ。行こ!」
だって、誠のお母さんのよろこぶ顔、誠に見せてあげたいもん。
家からバスで十五分。埋立地ぞいに走ると、西湾ショッピングモールが見えてきた。
横に長細い建物。その前には、建物の三倍はありそうな駐車場が広がっている。
バスをおりると、冷たい潮風が、あたしのほおをなでた。ミニスカートのすそがはためいて、あわてて、腕でおさえる。
真昼間なのに、冷蔵庫で冷やしたような雲が、もくもくと空をおおっている。
きょうは寒そうだなって思ったから、ニーハイソックスをはいてきてよかった。上もしっかり、うすピンクのジャケットをはおってきたし。
いつもよりほんの少しがんばって、オシャレな服を着てきたわけは。
誠のためじゃなくてさ。
カワイイ服のお店や、雑貨のお店がいっぱい入ってるショッピングモールに行くんだから、「気合入れなきゃ」って思ったから。
誠がポンッと、あたしのあとから、バスをとびおりた。
誠もきょうは、がんばってる。
アメリカの野球チームの臙脂色のキャップをかぶって。だぼっとしたオーバーオールの中に、黄緑と白のボーダーのフードつきのトレーナーを着て。
誠って、カラフルな色が似合うんだなって、ちょっと新鮮。
ヨウちゃんなんか、白か黒かグレーかで、下はだいたいジーンズだからさ。オシャレしないでもモテるからって、カンペキ、服、手を抜いてる。
「あ、えっと。誠、ここに来たことある? この二階にアクセサリーのお店があるんだけどね。中入ってから、ちょっと歩くんだけど。えっと、じゅ、十分くらい?」
ひとりで、とばしぎみにアワアワ言っていたら、となりにならんだ誠が、「あは」って笑った。
「きょうの和泉、な~んか、あわててる~。い~よ、店は逃げてかないし、ゆっくりいこ~よ」
なんだ。いつもとかわんない。
でもさ。ならんだときの距離とか、どれくらいの速さで歩いたらいいかとか、よくわかんないんだよね。
ヨウちゃんはたいてい、スタスタ前を歩いて行っちゃうんだけど。
誠は、となりを歩いてくれるんだもん。
「あっ! うまそうなもん、はっけ~んっ!」
フードコートに入ったとたん、誠が行く先を指さした。
「和泉、肉まん好き? 買って来ていい~?」
「え? うん。好きだけど」
あっという間に、誠は、肉まんのお店にならんでる。
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