
二時間目の学活の時間。
担任の大河原(おおがわら)先生が、「卒業キャンプ」の班を決めるって言い出した。
小学校生活の記念として、修学旅行とは別に、一泊キャンプをするっていうのが、うちの学校の伝統行事。
だけど、行くところは毎年「浅山」なもんだから、子どもたちから、非難ゴーゴー。
そんなさ。九月の校外学習でもつかわれたような、学校から歩いて三十分でつくような場所でさ。今さら、キャンプしてもね。
寝泊りするのは、山すそにあるバンガロー。
飯ごう炊飯でカレーをつくって、たき火をかこんで、キャンプファイヤーをして、きもだめしまでして。
内容的には、もりだくさん。
「小学校の思い出行事だから、飯ごう炊飯の班は、おまえらの好きに決めていいぞ~」
大河原先生がさけんだから、クラス中、ワッともりあがった。
「ただし~、ひと班、四人から五人で組むこと~」
みんな自分の席から立ちあがって、後ろの子と手を取り合ったり、「いっしょに組もうぜ~」ってさけんだり。
「真央ちゃん、有香ちゃんいっしょにやろ~」
真央ちゃんの席にとんでいったら、すでに有香ちゃんも来ていて、にっこりした。
「もちろん、綾ちゃん! あと、ひとりか、ふたりだね~」
って、ここまではよかったんだけど。
あたしたち、「う~ん」ってこまっちゃった。
六年の女子は十二人。
で、あたしたち三人グループのほかに、リンちゃんたちのグループが四人いて。その子たちは、ヨウちゃんをふくめて、いっしょの班になろうとしている。
あと、のこり五人の女子たちは、五人でひとつの班になることを決めたみたい。
「マズイな、うちらあぶれてる……」
真央ちゃんが太い腕を組んで、うなった。
「あ、お~い。和泉ぃ~」
教室の前のほうから、能天気な声がした。
見たら、誠が、おサルみたいに大きく手をあげて、ふっている。
「和泉の班に、オレらも入れてぇ~」
誠のとなりにいるのは、山田。お腹がポコンとふくれてて、ジャガイモみたいに真ん丸な顔。誠とよくしゃべっているのを見るけど、女子に対しては無口かな。
「な~んか。男子は、葉児をのぞいて、四人と四人で別れるんだってぇ~。そしたらオレたち、あまるじゃん」
誠がペタペタ歩いてくる。
クリクリ目を見ていたら、きのうのことを思いだした。
誠ってば。あたしのこと「天使」とか言ってたような……。
ボッと、ほっぺが熱くなって下を向いたら、横で、真央ちゃんが小さな目をパチパチ。
「あれ? 綾って、誠と仲良かったっけ?」
「えっ!? まぁ、いいじゃん! これで、五人の班になるなら」
ホントは、ヨウちゃんと組みたかったなんて……言えないもんね。
チラッとヨウちゃんの席を見たら、ヨウちゃんのつくえの向かいで、リンちゃんがメンバー表を書き込んでいた。
だけど、当の本人は、両腕の中に顔をふせて、つくえの上につっぷしちゃって。
本気で具合悪そうなんだけど。ほっといていいの、アレ……。
「なあなあ。オレさ~、どう考えてもわかんないんだけど。きのう見たのは、なんだったのかなぁ? なんかさぁ。和泉、浅山にいたとき、背中に羽なかった?」
うわっ!? ドキっ!
「羽? なんの話?」
有香ちゃんまで、黒縁メガネを光らせて、首をつっこんでくる。
「羽なんかあるわけないじゃん。誠ってば、なに言っちゃってんのよっ!! 」
おたおたしてるあたしに、「そりゃそうだろ~な~」って真央ちゃん真顔。
「おかしいな~。幻だったのかなぁ~?」
誠はまだ、首をこきこきかしげてる。
「幻に決まってるでしょっ!! そんなことより誠、お母さんのプレゼントはもう決めたのっ?」
とにかく、話題をそらさなきゃっ!
「……え~? まだぜんぜん~。って、あれ? オレ、和泉にそんな話したっけ?」
ヤバっ!
誠からお母さんのプレゼントの話をきいたのって、妖精のときだった。
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