《1》記憶の実、ころり 5 - ナイショの妖精さん1
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《1》記憶の実、ころり 5

  21, 2018 21:33
2018091201




「わっ!? 」


 瞬間的に腰を引く。そうしたら、リュックの重みで、体が後ろにかたむいた。


「わっ! わっ! わっ! わっ!」


 両手をバタバタ。でも、背中はそり返ったまんま。

 後ろに倒れて、お尻からベタン!


「い、痛ったぁ~」


 ホント、なんであたし……こうアホっ子……?


 じんじんしびれるお尻を起こして、そのままかたまった。

 転んだ目の前。

 登山道の右側の木々が開けていて、その向こうに赤紫の丘が広がってる。

 しきつめられているのは、丈の短い草。

 草には、小鈴みたいな赤紫色の花がワサワサついている。文字通り、鈴なり状態。
 お花畑の面積は、校庭の四倍くらいかな。


 こんな場所、あったんだ……。


 浅山なんて、家のすぐ近くにあるから、生まれてからもう何回も来てるんだけど。
 まるで、ここだけ、別世界。風は、遠い遠い外国から吹いてきているみたい。

 鈴みたいな小花をゆらして、先っぽにトンボがとまった。

 トンボの胴体の部分が、いつも見ているトンボよりも大きい気がする。


「……ん?」


 じいっと、目をこらして。

 心臓がビクンととびはねた。


 トンボじゃないっ!


 頭に金色の髪がはえていて、しなやかな白い体に細い人の手足がついている。


「ひ、人っ!? 」


 さけんだとたん、トンボ人間は、パッと飛びあがった。

 またたく間に、花畑の中にまぎれていく。


「ま、待ってっ!」


 花畑に右足をつっこんで、「イタっ!」って、足をあげた。

 この花、キレイに見えて、葉っぱの部分がごわっごわ。 マツみたいにチクチクとがった葉がいっぱいついてる。


 トンボ人間はもう、お花畑を小さくなってく。

 あたしは、大またで花畑に踏み込んだ。

 ショートパンツからむきだしの足に、チクチクの葉っぱがあたる。
 だけどもう、痛さなんて気にならない。



――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――



 大昔にきいたはずの声が、低く、深く、胸の底からよみがえってくる。


 だれに言われたんだろう……?


 どこで……?

 なんで……?


 わからない。


 記憶の背景は真っ白。言った人の顔も、霧に包まれたみたいに、よく見えない。
 覚えているのは、胸にしみわたるやさしい男の人の声だけ。



――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう。羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――



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