
「わっ!? 」
瞬間的に腰を引く。そうしたら、リュックの重みで、体が後ろにかたむいた。
「わっ! わっ! わっ! わっ!」
両手をバタバタ。でも、背中はそり返ったまんま。
後ろに倒れて、お尻からベタン!
「い、痛ったぁ~」
ホント、なんであたし……こうアホっ子……?
じんじんしびれるお尻を起こして、そのままかたまった。
転んだ目の前。
登山道の右側の木々が開けていて、その向こうに赤紫の丘が広がってる。
しきつめられているのは、丈の短い草。
草には、小鈴みたいな赤紫色の花がワサワサついている。文字通り、鈴なり状態。
お花畑の面積は、校庭の四倍くらいかな。
こんな場所、あったんだ……。
浅山なんて、家のすぐ近くにあるから、生まれてからもう何回も来てるんだけど。
まるで、ここだけ、別世界。風は、遠い遠い外国から吹いてきているみたい。
鈴みたいな小花をゆらして、先っぽにトンボがとまった。
トンボの胴体の部分が、いつも見ているトンボよりも大きい気がする。
「……ん?」
じいっと、目をこらして。
心臓がビクンととびはねた。
トンボじゃないっ!
頭に金色の髪がはえていて、しなやかな白い体に細い人の手足がついている。
「ひ、人っ!? 」
さけんだとたん、トンボ人間は、パッと飛びあがった。
またたく間に、花畑の中にまぎれていく。
「ま、待ってっ!」
花畑に右足をつっこんで、「イタっ!」って、足をあげた。
この花、キレイに見えて、葉っぱの部分がごわっごわ。 マツみたいにチクチクとがった葉がいっぱいついてる。
トンボ人間はもう、お花畑を小さくなってく。
あたしは、大またで花畑に踏み込んだ。
ショートパンツからむきだしの足に、チクチクの葉っぱがあたる。
だけどもう、痛さなんて気にならない。
――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――
大昔にきいたはずの声が、低く、深く、胸の底からよみがえってくる。
だれに言われたんだろう……?
どこで……?
なんで……?
わからない。
記憶の背景は真っ白。言った人の顔も、霧に包まれたみたいに、よく見えない。
覚えているのは、胸にしみわたるやさしい男の人の声だけ。
――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう。羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――
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