《2》 かごの中の人面蝶 10 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 10

  15, 2019 21:09
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「ヨウちゃんっ! あ、あたしっ!」


 ふり向いたら、ヨウちゃんは、砲弾倉庫の前で座り込んだまんま、ただ目を見開いていた。


 治った理由、ヨウちゃんも知らないの……?




「あはは、なんだこれ? ホントに和泉ぃ?」


 ふわっと、左のほっぺたがあっかくなった。

 ドキッとして向き直ったら、あたしのほっぺたに、誠の右手がそえられていた。

 赤い指先。しめった誠の手のひら。


 ええええ~っ !?


 数センチ先に、誠の黒くてかがやく瞳。鼻、近すぎてぶつかりそう。


 ウソこれっ !? ちょっとしたラブシーンっ !?


「和泉。なんだか、すっごくキレ~。天使みたい……」


 誠はぼんやりと、またまぶたを半分閉じた。ほっぺた、ピンクに染まってる。


 ドキッとした。


 あたしはあわてて、背中に力を入れて、自分の羽を引っ込めた。

 手のひらサイズになる前だったおかげで、羽はしゅっと、あたしの肩甲骨の中に消える。




「……よかったじゃねぇか、綾」


 背中から、低い声がした。


「……え?」


 ふり返ると、ヨウちゃんは両ひざに手をついて、砲弾倉庫の前から立ちあがっていた。


「人面蝶から、天使って、すっげ~進歩だろ?」


 さっきまでの、空気の抜けてくふうせんみたいな声じゃない。ちゃんと芯のある強い声。

 だけど、すごくざらついてる。


「あっ! ね、ねぇ。ヨウちゃんも、体、だいじょうぶなの……?」


「なにがだよ? オレは、なんも食らってない」


 ヨウちゃんはふいっと、あたしたちから背を向けた。ジーンズの後ろポケットに、両手をつっこんで、スタスタと先に歩き出す。


「ま、待ってっ!」


 どうして、ひとりで行っちゃうの~っ !?




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