《2》 かごの中の人面蝶 9 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 9

  13, 2019 20:33
2018123001


 重い誠の肩をずるずると抱えて、ヒースの茂みまで引きずって。

 なんとか、茂みに誠をおろす。

 あたしは、ハアハア、砲弾倉庫の中をふり返った。

 ヨウちゃんはまだ、血の気の引いたほおでへたり込んでいる。

 だけどその奥。部屋の中はしんとしていた。

 あの黒いタマゴは、観音開きの扉を、自力で開けられないのかもしれない。


 へいき……。追ってこない……。


 あたし、ハ~と、こめかみにふきでた汗をぬぐった。

 ヒースの茂みはさんさんと太陽の日を受けていて、その上を秋風がそよいでいく。

 チチやヒメは、どこに遊びに行ったんだか、出てこない。


 あの子たち、なんでこんな、気持ち悪いタマゴを、大事そうにしまってるの……?


「……あれぇ? 人面蝶じゃん~」


 ハッとして、自分の足元を見おろした。

 あたしに引きずり出されたまんまのあおむけで、誠がヒースの茂みに倒れこんでいる。


「ヘンなの~? 人面蝶が人間になって、オレのことを助けに来た~」


 眠そうな目で、誠がぼんやり笑う。

 その腕や胸には、スタジャンの上から、うっすらとした黒いモヤが巻きついていた。

 黒い蛇が這いずったあと。


 なにこれ、気持ち悪い~っ !!


 パンパン手ではらっても、モヤは散ってくれない。

 むしろ、ぎゅ~って、誠の体に食い込んでいくみたい。


「あれ~? おかしいな~。頭の中が、ぼ~っとしてく~。オレ、さっきまで、お母さんにあげる誕生日プレゼントをさがしてたのに~……」


「……誠……」


 誠はたぶん、前にここに来て、あの部屋に、黒いタマゴがあるのを知っていたんだと思う。

 お母さんにアクセサリーをあげたいのに、お金がないって言ってたから。黒い宝石みたいに見えるタマゴを、プレゼントにしようって……。


「誠っ!!  誠、しっかりしてっ!」



「……綾……」


 後ろから、ヨウちゃんの声がした。


「おまえ……羽、出してる……」


 あ……ホントだ……。


 肩甲骨のあたりが熱い。

 銀色のチョウチョの羽が、ヨットの帆のように、大きく張られてく。


 あたし、どうして……?


 パニックになっちゃって、頭の中で、人間と妖精のバランスがくずれちゃったのかも。

 誠の横に座り込んだ、あたし。

 背中の羽から、チラチラ銀色のりんぷんが、誠の体にふりそそぐ。


 チラチラ、チラチラ。


 満天の星が落ちてきて、誠につもっていくみたい。

 誠の胸に巻きついた黒いモヤは、りんぷんの光をあびると、吸い込まれるようにして、消えた。

 腕に巻きついていたモヤも、りんぷんの光の中で消えていく。



「……は~。なんだろ? 頭ん中が、すっきりした……」


 誠が上半身を持ちあげた。

 首をコキコキして、それから両手をあげて、ぐ~っとのび。


 ……え?


 まばたきしたら、あたしの顔の前に、誠の顔があった。大きな口を横に開けて、にへっ。


「……あれ~? 人面蝶じゃなくて、和泉だぁ? なんでこんなとこにいるわけぇ?」


「誠……? え? ウソっ !?」


 クリクリ二重のいつもの誠。スタジャンの腕や胸に巻きついてた黒いモヤは、もうない。


「な、治ったのっ!? 」


 だ、だって! こんなことってあるっ!?

 あたしの羽のりんぷんが、黒いモヤを消しちゃったっ!




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