
重い誠の肩をずるずると抱えて、ヒースの茂みまで引きずって。
なんとか、茂みに誠をおろす。
あたしは、ハアハア、砲弾倉庫の中をふり返った。
ヨウちゃんはまだ、血の気の引いたほおでへたり込んでいる。
だけどその奥。部屋の中はしんとしていた。
あの黒いタマゴは、観音開きの扉を、自力で開けられないのかもしれない。
へいき……。追ってこない……。
あたし、ハ~と、こめかみにふきでた汗をぬぐった。
ヒースの茂みはさんさんと太陽の日を受けていて、その上を秋風がそよいでいく。
チチやヒメは、どこに遊びに行ったんだか、出てこない。
あの子たち、なんでこんな、気持ち悪いタマゴを、大事そうにしまってるの……?
「……あれぇ? 人面蝶じゃん~」
ハッとして、自分の足元を見おろした。
あたしに引きずり出されたまんまのあおむけで、誠がヒースの茂みに倒れこんでいる。
「ヘンなの~? 人面蝶が人間になって、オレのことを助けに来た~」
眠そうな目で、誠がぼんやり笑う。
その腕や胸には、スタジャンの上から、うっすらとした黒いモヤが巻きついていた。
黒い蛇が這いずったあと。
なにこれ、気持ち悪い~っ !!
パンパン手ではらっても、モヤは散ってくれない。
むしろ、ぎゅ~って、誠の体に食い込んでいくみたい。
「あれ~? おかしいな~。頭の中が、ぼ~っとしてく~。オレ、さっきまで、お母さんにあげる誕生日プレゼントをさがしてたのに~……」
「……誠……」
誠はたぶん、前にここに来て、あの部屋に、黒いタマゴがあるのを知っていたんだと思う。
お母さんにアクセサリーをあげたいのに、お金がないって言ってたから。黒い宝石みたいに見えるタマゴを、プレゼントにしようって……。
「誠っ!! 誠、しっかりしてっ!」
「……綾……」
後ろから、ヨウちゃんの声がした。
「おまえ……羽、出してる……」
あ……ホントだ……。
肩甲骨のあたりが熱い。
銀色のチョウチョの羽が、ヨットの帆のように、大きく張られてく。
あたし、どうして……?
パニックになっちゃって、頭の中で、人間と妖精のバランスがくずれちゃったのかも。
誠の横に座り込んだ、あたし。
背中の羽から、チラチラ銀色のりんぷんが、誠の体にふりそそぐ。
チラチラ、チラチラ。
満天の星が落ちてきて、誠につもっていくみたい。
誠の胸に巻きついた黒いモヤは、りんぷんの光をあびると、吸い込まれるようにして、消えた。
腕に巻きついていたモヤも、りんぷんの光の中で消えていく。
「……は~。なんだろ? 頭ん中が、すっきりした……」
誠が上半身を持ちあげた。
首をコキコキして、それから両手をあげて、ぐ~っとのび。
……え?
まばたきしたら、あたしの顔の前に、誠の顔があった。大きな口を横に開けて、にへっ。
「……あれ~? 人面蝶じゃなくて、和泉だぁ? なんでこんなとこにいるわけぇ?」
「誠……? え? ウソっ !?」
クリクリ二重のいつもの誠。スタジャンの腕や胸に巻きついてた黒いモヤは、もうない。
「な、治ったのっ!? 」
だ、だって! こんなことってあるっ!?
あたしの羽のりんぷんが、黒いモヤを消しちゃったっ!
次のページに進む
前のページへ戻る

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト