《2》 かごの中の人面蝶 8 - ナイショの妖精さん2
fc2ブログ

《2》 かごの中の人面蝶 8

  12, 2019 21:15
2018123001


 からっぽの砲弾倉庫で、カーゴパンツをはいた男子が、キョロキョロあたりを見まわしてる。


「たしか、ここらへんにあったんだよな~」


 その子の身長は、あたしよりたった一、二センチ高いくらい。耳は大きくて横に広がっている。

 両腕を上にあげて、部屋の奥の壁をベタベタさぐって。なんだか、バンザイしてるおサルさんみたい。


「……誠?」


 あたしの手をにぎったまんまで、ヨウちゃんがつぶやいた。


 ホントだ。誠だ。

 でも、こんなところになんの用?


「あ、はっけ~ん! この扉だぁ~っ !!」


 誠、大きなひとり言。

 誠は、部屋の奥の壁についた、観音開きの扉に手をかけている。牛の鼻輪みたいなフックを引っぱって、ギイイと扉を開けていく。


 あ、あそこっ! 黒いタマゴがあった場所っ!


 あたしが、ぎゅっとヨウちゃんの手をにぎり返したとき。

 誠は扉の中に、手をつっこんだ。


「みっけ~っ!!  じゃじゃじゃじゃ~んっ! 勇者は黒い宝石を手に入れたっ!」


 とたん。


 あたり一面、黒い気に包まれた。


 ……え?


 大蛇みたいにうねりながら、黒いモヤが、奥の部屋からとびだしてくる。

 一匹じゃない。二匹、三匹、四匹……。

 煙は誠の右腕に、ぐるりぐるり、トグロを巻いていく。


「う、うわぁあああっ!! 」


 バンッと音がした、瞬間。


 あたしは、宙にふっとぶ、誠を見ていた。


 背面とびの選手みたい。

 あおむけにとんだ誠は、砲弾倉庫のゆかに、ドッと背中を打ちつける。


「……っ。く……」


 強く背中を打ったせいで、誠、息がつけてない。

 その誠に、ぶわっと黒いモヤが、大蛇みたいに襲いかかった。

 モヤの出ている場所を見て、あたし「あっ!」っとさけんだ。


 黒いタマゴ。


 観音開きのとびらの奥で、黒いタマゴの表面がギラリと光る。


「や、やめて~っ!! 」


 ヨウちゃんの手をはなして、あたしは扉のほうへかけだした。


2019011201





「綾っ!? 」


 ヨウちゃんの声が裏返る。

 扉の中からわきあがる黒いモヤ。

 視線を感じる。

 黒い大蛇のようなモヤの中で、黒いタマゴが鎮座して、こちらを見ている。

 ぐるっと、視線が動いた。

 ヨウちゃんの足が、ざっと一歩、後ずさった。


 タマゴの中身が……ヨウちゃんを見てる……。


 脳に直接ひびく、オオオオっていう低いとどろき。その中に、猛獣みたいな息づかいを感じる。

 タマゴの中に目があった。

 黒いタマゴの中に、大きな人間の目がひとつ。

 ラグビーボールを横に倒したような楕円形。その中に、丸くて黒い目の玉。

 ヨウちゃんの腰がふ~ってさがった。ぺたん。倉庫の前に尻もちをつく。


 ぐるるるる……。


 とびらの中でうずまく黒蛇たち。


 ……なんで……?


 身構える矛先が、ヨウちゃんにかわってる。

 黒いタマゴを取ろうとしたのは誠なのに。

 もたげた鎌首を一度、後ろにさげて。次の瞬間、いっせいに襲いかかる――。


 あたしは、両手で観音開きの金具をつかんだ。

 腕に全体重をかけて、蛇が飛び出す前に、バンっと、扉を閉めきる。

「ドンっ!」と蛇が扉の内側に激突した音。


 なにあれ? なにあれ? なにあれ?


 頭の中、ぐるんぐるん。

 心臓がバクバク鳴りっぱなしで、自分が今、なにをしているんだかも、よくわかんない。


「誠っ! しっかりしてっ!! 」


 あたしは、誠の右腕を自分の肩の上にかついで、ふらふら倉庫の外へ逃げ出した。



 タマゴの中に、なにかいたっ!

 中から、ヨウちゃんを襲おうとしたっ !!


 なんで?



次のページに進む

前のページへ戻る


にほんブログ村


児童文学ランキング


スポンサーサイト



Comment 0

What's new?