
からっぽの砲弾倉庫で、カーゴパンツをはいた男子が、キョロキョロあたりを見まわしてる。
「たしか、ここらへんにあったんだよな~」
その子の身長は、あたしよりたった一、二センチ高いくらい。耳は大きくて横に広がっている。
両腕を上にあげて、部屋の奥の壁をベタベタさぐって。なんだか、バンザイしてるおサルさんみたい。
「……誠?」
あたしの手をにぎったまんまで、ヨウちゃんがつぶやいた。
ホントだ。誠だ。
でも、こんなところになんの用?
「あ、はっけ~ん! この扉だぁ~っ !!」
誠、大きなひとり言。
誠は、部屋の奥の壁についた、観音開きの扉に手をかけている。牛の鼻輪みたいなフックを引っぱって、ギイイと扉を開けていく。
あ、あそこっ! 黒いタマゴがあった場所っ!
あたしが、ぎゅっとヨウちゃんの手をにぎり返したとき。
誠は扉の中に、手をつっこんだ。
「みっけ~っ!! じゃじゃじゃじゃ~んっ! 勇者は黒い宝石を手に入れたっ!」
とたん。
あたり一面、黒い気に包まれた。
……え?
大蛇みたいにうねりながら、黒いモヤが、奥の部屋からとびだしてくる。
一匹じゃない。二匹、三匹、四匹……。
煙は誠の右腕に、ぐるりぐるり、トグロを巻いていく。
「う、うわぁあああっ!! 」
バンッと音がした、瞬間。
あたしは、宙にふっとぶ、誠を見ていた。
背面とびの選手みたい。
あおむけにとんだ誠は、砲弾倉庫のゆかに、ドッと背中を打ちつける。
「……っ。く……」
強く背中を打ったせいで、誠、息がつけてない。
その誠に、ぶわっと黒いモヤが、大蛇みたいに襲いかかった。
モヤの出ている場所を見て、あたし「あっ!」っとさけんだ。
黒いタマゴ。
観音開きのとびらの奥で、黒いタマゴの表面がギラリと光る。
「や、やめて~っ!! 」
ヨウちゃんの手をはなして、あたしは扉のほうへかけだした。

「綾っ!? 」
ヨウちゃんの声が裏返る。
扉の中からわきあがる黒いモヤ。
視線を感じる。
黒い大蛇のようなモヤの中で、黒いタマゴが鎮座して、こちらを見ている。
ぐるっと、視線が動いた。
ヨウちゃんの足が、ざっと一歩、後ずさった。
タマゴの中身が……ヨウちゃんを見てる……。
脳に直接ひびく、オオオオっていう低いとどろき。その中に、猛獣みたいな息づかいを感じる。
タマゴの中に目があった。
黒いタマゴの中に、大きな人間の目がひとつ。
ラグビーボールを横に倒したような楕円形。その中に、丸くて黒い目の玉。
ヨウちゃんの腰がふ~ってさがった。ぺたん。倉庫の前に尻もちをつく。
ぐるるるる……。
とびらの中でうずまく黒蛇たち。
……なんで……?
身構える矛先が、ヨウちゃんにかわってる。
黒いタマゴを取ろうとしたのは誠なのに。
もたげた鎌首を一度、後ろにさげて。次の瞬間、いっせいに襲いかかる――。
あたしは、両手で観音開きの金具をつかんだ。
腕に全体重をかけて、蛇が飛び出す前に、バンっと、扉を閉めきる。
「ドンっ!」と蛇が扉の内側に激突した音。
なにあれ? なにあれ? なにあれ?
頭の中、ぐるんぐるん。
心臓がバクバク鳴りっぱなしで、自分が今、なにをしているんだかも、よくわかんない。
「誠っ! しっかりしてっ!! 」
あたしは、誠の右腕を自分の肩の上にかついで、ふらふら倉庫の外へ逃げ出した。
タマゴの中に、なにかいたっ!
中から、ヨウちゃんを襲おうとしたっ !!
なんで?
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