
「……」
書斎で。お父さんのつくえの前に座って。ほおづえをついて。
ヨウちゃんがあたしを見すえてる。
ななめにかまえた、琥珀色の目。冷凍庫の中みたいに、キンっキン。
「……」
つくえの向かいのゆりイスに座って。
チラッとヨウちゃんを見あげて。
あたしはすぐにまた、視線をひざの上のにぎりこぶしにもどす。
今朝。
一日ぶりに学校に行ったら、クラスのみんなはいつもどおりだった。
誠は教室の一番前の席から、一瞬だけあたしを見て。山田との会話にもどっちゃった。
ヨウちゃんも、いつもどおり。あいかわらず女子たちにかこまれていたから、あたしが割り込むすき間ナシ。
そんなわけで。放課後に、おそるおそる、書斎に寄ったんだけど……。
「――で?」
やっと、口を開いたと思ったら、ヨウちゃんがしゃべったのは、この一言だけ。
「……えっと……。だから……。きのうは、ごめんなさい。あたし、ちょっとだけ、息抜きしたくなっちゃって……」
「……ふ~ん。『ちょっと』って、アレがか?」
「だ、だってっ! まさか、誠につかまるとは思わなかったんだもんっ!」
「……それで。オレが行かなかったら、おまえ、どうする気だったんだ?」
「えっ!? そ、それは……」
考えてなかったなんて、言えない……。
「おまえのお母さん、だいぶ心配してたな~。あれから病院行ったんだろ? 医者はなんて?」
「……つかれてるだけだって」
「まさか、医者も、患者が妖精になってたとは思わないよな~」
グサグサ胸につきささってくる、ツララみたいな嫌味の数々。
くっと、うつむいてたら、ヨウちゃんはハァ~って息をはき出した。
「綾さ。人間のままでいるって、決めたんじゃなかったのか?」
「う……うん……」
「じゃあ、なんで、かんたんに妖精になったりするんだよっ!? オレ、前にも言ったよな? 妖精なんて、虫みたいに弱い存在だって! 運よくもどってこれたから、よかったものの。鳥とかネコに見つかって、食われてたって、おかしくなかったんだぞっ!! 」
「……ご、ごめんなさい……」
わかってる。
ヨウちゃんがただのイヤがらせで、嫌味を言ってるわけじゃないんだって。
「あの。ヨウちゃん、これ、お返しします……」
あたしは立ちあがって、お代官様に年貢をおさめるみたいに、ヒソップの小ビンをつくえにのせた。
「助けに来てくれて、ありがとうございました……」
ほおづえからあごをあげて、ヨウちゃんがヒソップのビンを見つめる。
ふっと息をはきだして、ヨウちゃんはビンを受け取った。
「……次は、ねぇからな」
目元がふわっと、やわらかい。
わ……キュン。
とたんに、「怖い」って気持ちが、海のかなたにとんでいく。
「あ、そうだっ!! ヨウちゃん、あたしね! 浅山で、へんなの見たのっ!」
「……は? へんなの?」
「うん。黒いタマゴっ!」
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