《2》 かごの中の人面蝶 5 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 5

  06, 2019 22:34
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 きょうは仕事がない日だから、一日家にいたのかも。ママの髪のパーマは落ちぎみで、ゆったり部屋着のロングスカートをはいている。


「綾ね~。ちょっと、風邪引いちゃってね。そうそう。あの子ってば、最近しょっちゅう、葉児君のおうちにお邪魔してるでしょ。うるさくてごめんなさいね~。ジャマだったら、追い出しちゃっていいからね」


 ママってば、言いたい放題。


「いえ、へーきです。あ、これが連絡シートです」


 ヨウちゃんは、自分のランドセルを開けて、本当に連絡シートを取り出した。

 連絡シートは、学校を休んだ人がもらうプリント。きょう一日学校でした勉強の内容や、宿題や、あしたの持ち物が書かれてる。


「……おい、綾、早く」


 ぼそっと、ヨウちゃんの声がした。


 あっ! そうだった! このすきにっ!


 ママがプリントに目を通している間に、あたしはヨウちゃんのウインドブレーカーのポケットから飛び立った。

 銀色のアゲハチョウの羽をはばたかせて、階段を二階へ。

 開けはなされたドアから、見慣れた自分の部屋へ。

 窓ぎわのベッドに、人間のあたしが寝ていた。


 自分の姿を外側から見るのって、何度見てもヘンな感じ。きのうのまま。あおむけになって、目を閉じている。

 その横に、ヒソップのビンが、ちゃんと置いてあった。


 あたしは、コルクのふたを、全身の力をつかって、引っぱって抜いた。

 小ビンをななめにかたむけて、ビンの口に口をつけて。

 虹色の液体がこぼれる。その液体を一滴。ゴクンと飲み込む。


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 頭がぼうっと、なって。

 あたしの妖精の体が、虹色の光に包まれて消えていく。

 次の瞬間、パチンとなにかにつながった。

 パチン、パチン。パチン、パチン。

 脳みその回路に、ひとつひとつ、スイッチが入っていくみたい。



 ピクンと、右手の人さし指、動いた。


 まぶたが、ゆっくりと持ちあがってく。


 ピンク色のカーテンが目に入った。

 ベッドの横には、クマとウサギのぬいぐるみ。ハート型の目覚まし時計。

 腰をねじって、背中を見る。アゲハチョウの羽、ついてない。


「も、もどったっ!」


 人間の体って重い。

 足を動かして、階段をおりていくだけでも、ずっしりと重力がかかる。

 よたよた二階からおりていくと、玄関で会話してるママとヨウちゃんがあたしを見あげた。

 ヨウちゃんの琥珀色の瞳から力が抜ける。ホッと小さく息をつく。


「綾っ! 起きたのねっ!! 」


 ママがバタバタと階段の下までかけてきた。


「体、だいじょうぶ? あんた、きのうの夕方から、丸一日ずっと寝てたのよ。なにかの大きな病気だったらたいへんだから、今からお医者さんに行くわよっ!」



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