《2》 かごの中の人面蝶 4 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 4

  03, 2019 17:43
2018123001



 タオルに、ガバっと頭をつっこんで。

 い、いないふりっ!

 だけど、大またで近づいてくる足音、とまらない――っ!!


「葉児ぃ~。なんか飲む~? オレンジジュースと牛乳、どっちがいい~?」

「あ~。気にすんな。のどかわいてないから、なんもいらねぇ」


 軽く流すような声。

 ガチャンと、すぐそばで、鳥かごの入り口の金具をはずす音がした。

 キイって、入り口が開く音。

 って思ったら、頭をおおってたタオルがなくなって、あたしの体は、太い指につかまれてた。


 ぎゃんっ!


 視界が真っ暗になって、つっこまれたのは、布の中。


 ここ……どこ?


 入り口から顔を出したら、ヨウちゃんの黒いウインドブレーカーの左ポケットだった。

 ぐっと頭を押さえられて、ポケットの中に、ヨウちゃんの大きな左手が入ってくる。まるで、ポケットに上からふたをされたみたい。


「悪い、誠。鳥かご開けたら、人面蝶逃げた」

「えっ!?  ええ~っ!? 」

「あ。窓開けたら、外に逃げた」

「ちょっと、葉児ぃ、なにやってんだよぉ~っ!! 」

「悪い。――あ? オレ、教室に国語の教科書わすれてきたみてぇ。取りにもどるから、また、あしたな」

「待てよ~っ! 葉児ぃ、こんなん、ヒドイじゃんか~っ!! 」


 誠のわめき声が、背中で遠ざかっていく。バタンと玄関を閉じる音。団地の階段をおりる足音と、ヨウちゃんの息づかい。


 ……助けにきてくれたんだ……。


 トクン、トクン。定期的にきこえてくるのは、きっと、ヨウちゃんの心臓の音。

 あたしはポケットの中で、硬くにぎり込んでいるごつごつの左手の甲に、そっとほっぺたをあててみた。

 ピクッと一瞬だけ、こぶしがゆれる。

 筋がうきでてる。硬いけど、ひんやりすべすべ。


 ……ありがとう、ヨウちゃん……。


 人間の姿だったら、ぜったい、こんなことできないけど。

 ポケットの中だもん、両腕をまわして抱きついても、バレないよね。



「――綾。きのう、人んちから、ヒソップのビン盗んだろ?」


 ポケットの外からきこえてきたのは、低~い、ザラザラ声。


 ぎゃっ  やっぱり、怒ってるっ!


「ご……ごめんなさい……」


 もぞもぞとポケットから頭だけ出すと、上のほうに、奈良の大仏並みに大きいヨウちゃんの横顔があった。

 くもり空を、冷たい風が吹きすぎる。

 ここは、誠の団地から、くねくね道をくだったところにあるふみきり。人はだれも歩いてなくて、まわりには、稲を刈った田んぼが広がっている。


「いろいろ追及してやりたいことはある。けど、後まわしだ。綾、今、ビンはどこにある?」

「あの……うちの……あたしの部屋」


 おずおず言うと、ヨウちゃんはふみきりをわたりながら、うなずいた。


「わかった。このまま、おまえんちに行く。オレがおまえの親と話してるから、そのすきに、人間にもどってこい」

「う、うんっ!」


 大通りの歩道橋を越えて、住宅街を道一本、中に入って。うすピンクの壁の一戸建て。

 ここがあたしの家。

 ヨウちゃんちみたいなお庭はなくて、コンクリートでかためられたガレージに、パパの黒いワンボックスと、ママの赤いスポーツカーがとまってる。

 ヨウちゃんは、ためらわずに門のドアホンを押した。



「は~い」っていうママの声。


「こんにちは。オレ、綾さんと同じ、花田小六年の中条です。学校から、休んだ綾さんの分の連絡シートをあずかってきました」


「あらあら。わざわざありがとね」


 ガチャッと、玄関のドアが開いて、ママが顔をのぞかせた。




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