《2》 かごの中の人面蝶 3 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 3

  02, 2019 21:16
2018123001



 部屋の中は、真っ暗。

 さっきまでつくえの前で寝ていた誠は、十分前にむにゃむにゃ起きてきて、パチンと電気を消して、自分のふとんにもぐっていった。


 ママ、パパ……どうしてるんだろ……?


 あたしは、誠が入れてくれたハンドタオルにくるまって、眠れない。

 あたしの人間の本体は、妖精のあたしが帰るまで、自分の部屋のベッドで眠っているはず。

 ってことは、夕飯も食べないで、ずっと寝っぱなし。

 起こそうとしたって起きないよ。


 ……心配するよね……?

 病院に連れて行かれちゃうかな……?

 お医者さん、なんて言うんだろ……?


――おまえの友だちがどっかに行こうが、おまえがクラスでひとりぼっちになろうが、オレがずっと、おまえといてやるよ――


 数週間前に言われた言葉が、頭にぼんやりよみがえってきた。

「妖精の世界に行きたい」って、ダダをこねたあたしを、ヨウちゃんは「行くな」ってとめた。

「人間の世界には、オレがいるだろ?」って。

 なにその、オレサマなセリフ。

 あのときのヨウちゃんが、どういう気持ちであんなことをさけんだのか、あたし、いまだにわかんない。

 本人、しらっとしていて、なかったみたいになってるし。

 だけど、思い出すたびに、胸がしめつけられるように苦しくなる。


 あたし……こんなとこで、なにやってんだろ……?


「人間として生きる」って、約束したのに。

 お遊び半分で妖精になったりして。

 それでつかまって、もどれなくなるなんて、自業自得――。




「行ってきま~す」


 朝、誠はランドセルに教科書をつめかえると、ランドセルのふたをガバガバさせたまんまで、学校に行っちゃった。

 ガチャって鍵をかけたのは、お母さんはとっくに仕事に行っていて、誠のほうが家を出る時間が遅いから。


 誠ってば、宿題をやってないこと、完全にわすれちゃってる……。

 また、先生に怒られるんだろな……。


 あたしは、起きても、鳥かごの中。ぼんやりひざを抱えて、部屋の壁にはられた、サッカー選手のポスターを見あげてる。

「これ、お昼ごはんね」って、誠はかごの中にアンパンを一個、入れてくれた。
 一口サイズのミニパンなんだけど、妖精のあたしには、量が多すぎるかも。

 パンの横には、ストローをさしたオレンジジュースまで、そえられてる。


 知らなかった。誠って、気が利くんだ……。




 ガチャって、また玄関のドアの開く音がしたのは、ベランダから差し込んでくる日が、東から西にかわって、かけ時計の針が、四時半をさしたころだった。


「本当だって~。人面蝶~。アゲハチョウみたいなんだけど、マジで人の体がついてんの。しかもそれがさ~、和泉に似てるんだってぇ」


 ベラベラしゃべりながら、誠が玄関に入ってくる。


 ぎゃっ! ど、どうしようっ!!

 誠ってば、友だち連れてきた~っ!


 でも、そういえば。あの誠が、教室で言いふらさないわけなかった。おもしろいことを、人に話すの大好きだもん。

 こないだだって、「ノラ猫に眉毛ついてた~」とか。「三本足のカラス見た~」とか、さわいでたし。
 たいてい、まわりの男子のほうが信じなくて、きき流されるんだけど。


 教室中にうわさが広がっちゃったら、あたし見世物にされちゃうよ~っ!!


「おじゃまします」


 おとなの男の人みたいに低い声をきいたとたん、あたしの胸は軽くなった。


 ……ヨウちゃん……。


 片肩にかけているグレーのランドセル。だれもいない家の中に、ぺこりと頭をさげて、スニーカーをそろえて、礼儀正しく玄関をあがってくる。


 ヨウちゃ~ん。助けてぇ~っ!!


 前髪があがって、琥珀色の目があたしを見る……。

 とたん。あたしは、パッと顔をそらした。


 こ、怖いっ!

 ぜ、ぜ、ぜったいに怒られる~っ!



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