《2》 かごの中の人面蝶 2 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 2

  31, 2018 18:12
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 どうやって、ここから抜け出そう……。


 誠に「出して」って、お願いしてみる?

 だけど、日本語を話すチョウなんて思われたら、なお、逃がしてもらえなくなりそう。

 テレビの取材が来て、どこかの研究機関で生態をしらべられちゃったりして!


 う~。それ、怖い~……。


 かごの中で頭を抱え込んでいたら、パジャマ姿の誠がお風呂から出てきた。

 タオルを肩にかけて、体から湯気がほこほこ。


 いいなぁ。誠は。しっかり夕飯食べて。お風呂にも入れて。

 
 ……お腹すいたぁ。


 もう、ぎゅ~ぐるぐるって、お腹の音がきこえちゃう。


「人面蝶。これ、食べる?」


 カチャって、かごの入り口が開いて、イチゴがひとつ、入ってきた。


 ……え? ウソ! うれしいっ!


「いただきます」って声に出しそうになって、あわてて口を自分の手でおさえる。


 しゃ、しゃべっちゃ、ダメっ!


 妖精の体だと、イチゴは巨大で、抱きまくら並みのサイズ。かじりついたら、甘い汁が口いっぱいに広がった。


 おいしい~。


「やっぱ、このチョウ、和泉(いずみ)に似てるな~」


 あたしは、ハッとして、イチゴから顔をあげた。

 かご越しに、アップになってる誠の顔。

 黒目がちのクリクリ目が寄り目になって、じ~っと、あたしを見つめている。


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 気づかれたっ!?

 もうここで「逃がして」って、言っちゃったほうがいい?


「和泉って、カワイイよな~。『アホっ子、アホっ子』って、みんな言うけどさ~。でも……和泉って、葉児とつきあってんのかな~?」


 誠はかごから目をはなして、勉強づくえのイスに、ギって腰かけた。


 ええっ!?  なにそれっ!

 誠、今、あたしのこと「カワイイ」って言ったっ!?

 それにあたし、ヨウちゃんとは、教室じゃほとんど話もしてないのに、どうして「つきあってる」なんて思えるのっ !?


 あ~、もう! 声、出しちゃいたいっ !!


 誠は、つくえの上に、ぼ~っとうつぶせになって、上の空。


「葉児はいいなぁ~。女子に好かれまくりだもん。本命できたら、かんたんに落としちゃえるんだろな~。オレも、あの十分の一でいいから、カッコよければな~……」


 ……意外。


 誠でも、そんなこと考えるんだ……。


「誠。お母さん、あしたも早出だから、先に横になるわね。あんた、宿題終わったの?」


 ふすまが開いて、となりの部屋からお母さんが話しかけてくる。

 さっきまで、となりの部屋を占領していたこたつづくえは、はじに移動されていて、 畳に、お母さんのふとんが敷いてあった。


「う~ん。宿題は、あとでやる~」

「そう……? おやすみ」


 ふすまが閉まると、誠はつくえの上でため息をついた。


「人面蝶~。もうすぐお母さんの誕生日なんだよね~。うちのお母さん、な~んにもオシャレしないから、なんか飾るもんあげたいんだけど。オレって、お金、ないんだよなぁ~」


 つぶやきながら、誠のまぶた、だんだん閉じられていく。

 つかれてるのかも。

 だって、買い物から帰ってきて、夕飯つくるのを手伝ってたし。お皿洗って、お風呂張って。お風呂から出たら、バスタブまで洗ってたし。


「キレイな宝石、どっかの道ばたに落ちてればいいのになぁ~」


 目を閉じたと思ったら、誠はすうすうと寝息をたてはじめた。




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