《2》 かごの中の人面蝶 1 - ナイショの妖精さん2
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《2》 かごの中の人面蝶 1

  30, 2018 21:08
2018123001



「本当だって~。人面蝶、人面蝶~っ!」 


 ふすま越しに、能天気な声がきこえてくる。


「オレ、おつかいの帰りにさ~。下の公園のブランコの柵に、とまってんのを見つけたんだよね~。だから、あまってたスーパーの袋を、こう、パーってかぶせてさ~。つかまえたんだ! 犬とか鳥じゃないんだし、この団地でだって飼えるだろ~?」


 半分開いたふすまの向こうで、茶碗をにぎりしめているのは、誠。

 大きな口を横に開いて、がしがしとご飯をかっ込んでいる。


 ……う。サイアク。


 あたしはまだ、背中にアゲハチョウの羽をはやしたまんま。

 夕暮れの団地の児童公園で、誠につかまっちゃって。

 今は、勉強づくえの上に乗せられた、鳥かごの中に、閉じ込められてる。

 この鳥かご。観葉植物を飾るためのインテリアだったのかも。ふつうの鳥かごよりも小ぶりの銅製。天井はドーム型で、吊すためのフックがついている。


「飼ってもいいけど。誠がひとりでめんどうみなさいよ」


 となりの部屋の、こたつづくえの対面で、誠のお母さんが、シバ漬けをかみしめた。

 正座して、髪を後ろにひとつでまとめて。キレイな箸の持ち方。やんちゃな誠の親とは思えないほど、静かな人。


 あたし、幼稚園のころはよく、このお母さんにおやつをごちそうになってたっけ。


 あのころは、誠とたくさん遊んだ記憶がある。

 だけど、年長さんのとき、誠の親が離婚して、お母さんが働きに出ることになって。誠は保育園に移っていった。


 小学校に入ってから、またいっしょになったけど、もうほとんど話さないな……。



「ごちそうさ~ん!」


 誠は、ガチャっとお茶碗を置いて、こたつづくえから立ちあがった。


「誠。お母さん、ちょっと腰痛いから、お皿洗いやってくれる?」

「おっけぇ~」


 ガニマタでバタバタ歩いて、バタンって、ふすまを開け切って。

 誠が、あたしのいる六畳間に入ってきた。


「えへへ~。人面蝶さん、飼っていいって~」


 鳥かごの向こうから近づいてくる、へら~って横に開いた大きな口。


 もうっ! あたしは、誠に飼われる気なんかないってばっ!!


「誠、お風呂はもう張れてる?」


 誠のお母さんが、となりの部屋から呼びかけた。

 腰が痛いみたいで、腰に手を置きながら、台ふきで、こたつのつくえをふいている。


「えっとぉ。七時半にタイマーつけたから、あと五分~」


 誠は「なはは」って笑ってる。

 誠の部屋のふすまは開いていて、小さな台所も、台所の横にくっついてる玄関のドアも、その横の洗面所まで、家の中、ぜんぶ丸見え状態。

 ガチャガチャとお皿を洗いながら、誠はナントカレンジャーの歌をうたってゴキゲン。


「お母さ~ん。お風呂張れたら、先に入ってよ~。少しぬるめにしたから、ゆっくりつかれば、腰が痛いのラクになるかも~」


 お皿立てのかごに、湯のみをたてて、誠が言った。




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