
あたしは、チョウの羽でとびさがった。
なにあれ……?
真っ黒な泥水の中に顔をつっこんじゃった気分。胃の中身が、ぞぞぞぞって、せりあがってくる。
小さな部屋の中央に置かれているのは、黒いタマゴ。
モヤをまとった、アメ玉サイズのタマゴ。
目なんかどこにもついてない、つるつる光沢を持った黒いカラなのに。
中からだれかが、あたしを見ている――。
「や、ヤダ、なにっ!? 」
「チチチチチ」
きゅっと目を細めて、チチが笑った。
「キンキンキン」
ヒメは倉庫の中でくるっと宙返り。
まるで、誕生日のお祝いでもするみたい。ふたりとも銀色のりんぷんをまき散らして、あっちこっちにとびはねる。
あたしは、羽をはばたかせて、一歩とびのいた。
二歩、三歩。
「あ、あの。あたし、帰るねっ!」
ふたりから背を向けて、くるっと砲弾倉庫からとびだす。
なにあれ、怖いっ!
大好きだったはずの、チチやヒメまで怖いっ !!
ヒースの茂みの上に、一番星がかがやいている。
ザク……ザク……。
茂みを、黒い影が近づいてくる。
ひとつ、ふたつ、三つ、四つ、五つ……。
どの影も、男の人の形をしている。
だけど、形はちゃんとさだまってない。
たまに、ノイズが入ったみたいにぼやけて、輪郭が、ふっと、モヤみたいに散ったりする。
茂みの向こうから横にならんでやってくる、黒い巨人たち。
「きゃ、きゃああああっ!! 」
あたし、チョウチョの羽で空にとびあがった。
高く、高く。
早く、早く。
街灯が灯っているところまで来た。
浅山のふもとに、テッシュケースを横に立てたみたいな五階建ての団地がならんでいる。
三号棟と、四号棟の間の児童公園。ゾウの形のすべり台がカワイイ。
「こ、こ、怖かったぁ~!!」
あたしは、ブランコの柵にとまって、ぜいぜい息を整えた。
だって、だって……。あれ、なにっ !?
「もしかして、ゆ、ゆ、ゆ……幽霊……?」
ぞくっときて、自分の肩を自分で抱く。
幽霊に黒いタマゴ……。
チチやヒメは、よろこんでるみたいだったけど……。
「か、帰ろ。家に」
また、飛び立とうとしたとき。
「ヘンなチョウチョ、はっけ~んっ!」
声とともに、頭にバサッと、白い袋がかぶさってきた。
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