《1》 あたしの背中の羽のこと7 - ナイショの妖精さん2
fc2ブログ

《1》 あたしの背中の羽のこと7

  29, 2018 18:27
2018121801


 あたしは、チョウの羽でとびさがった。


 なにあれ……?


 真っ黒な泥水の中に顔をつっこんじゃった気分。胃の中身が、ぞぞぞぞって、せりあがってくる。

 小さな部屋の中央に置かれているのは、黒いタマゴ。

 モヤをまとった、アメ玉サイズのタマゴ。

 目なんかどこにもついてない、つるつる光沢を持った黒いカラなのに。


 中からだれかが、あたしを見ている――。


「や、ヤダ、なにっ!? 」


「チチチチチ」


 きゅっと目を細めて、チチが笑った。


「キンキンキン」


 ヒメは倉庫の中でくるっと宙返り。

 まるで、誕生日のお祝いでもするみたい。ふたりとも銀色のりんぷんをまき散らして、あっちこっちにとびはねる。


 あたしは、羽をはばたかせて、一歩とびのいた。


 二歩、三歩。


「あ、あの。あたし、帰るねっ!」


 ふたりから背を向けて、くるっと砲弾倉庫からとびだす。


 なにあれ、怖いっ!


 大好きだったはずの、チチやヒメまで怖いっ !!




 ヒースの茂みの上に、一番星がかがやいている。


 ザク……ザク……。


 茂みを、黒い影が近づいてくる。

 ひとつ、ふたつ、三つ、四つ、五つ……。

 どの影も、男の人の形をしている。

 だけど、形はちゃんとさだまってない。

 たまに、ノイズが入ったみたいにぼやけて、輪郭が、ふっと、モヤみたいに散ったりする。

 茂みの向こうから横にならんでやってくる、黒い巨人たち。


「きゃ、きゃああああっ!! 」


 あたし、チョウチョの羽で空にとびあがった。


 高く、高く。


 早く、早く。




 街灯が灯っているところまで来た。

 浅山のふもとに、テッシュケースを横に立てたみたいな五階建ての団地がならんでいる。

 三号棟と、四号棟の間の児童公園。ゾウの形のすべり台がカワイイ。


「こ、こ、怖かったぁ~!!」


 あたしは、ブランコの柵にとまって、ぜいぜい息を整えた。


 だって、だって……。あれ、なにっ !?


「もしかして、ゆ、ゆ、ゆ……幽霊……?」


 ぞくっときて、自分の肩を自分で抱く。


 幽霊に黒いタマゴ……。

 チチやヒメは、よろこんでるみたいだったけど……。


「か、帰ろ。家に」


 また、飛び立とうとしたとき。


「ヘンなチョウチョ、はっけ~んっ!」


 声とともに、頭にバサッと、白い袋がかぶさってきた。




次のページに進む

前のページへ戻る


にほんブログ村


児童文学ランキング
スポンサーサイト



Comment 0

What's new?