《1》 あたしの背中の羽のこと6 - ナイショの妖精さん2
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《1》 あたしの背中の羽のこと6

  28, 2018 23:23
2018121801



 あたしと同じくらい歳の妖精が、ふわっと目の前におりてきた。

 バレリーナみたいに白いドレス。金髪はくるりと後ろにまとめて、綿毛の髪飾りでとめていて。

 この子が、「チチ」。

「チチチチ」って、スプーンとフォークを打ちつけたみたいな声で、よくおしゃべりしてくれるから、「チチ」。

 チチの後ろから、白いレースのロングドレスで身をまとった、中学生くらいの少女も出てきた。

 ふわふわパーマの長い金髪。小花のかんむりをつけて。つんと、おとなびた顔つき。

 お姫さまみたいにキレイだから、「ヒメ」。

 ふたりの名前は、あたしがつけたんだ。

「チチチチ」って言うだけの、妖精語なんて、わかんない。

 だから、ふたりには、ちゃんとした名前があるのかもしれないし、ないのかもしれない。


 浅山には、ほかにも、十数人の妖精たちがすんでいる。

 だけど、妖精たちははずかしがりやさんで、気を許した人の前にしか、姿をあらわさない。
 
 浅山に妖精がすんでいることを知っているのは、あたしとヨウちゃんと、ヨウちゃんのお母さんだけだと思う。


 ちなみに、こんな日本の片田舎に、妖精がいるわけは。

 妖精学者だったヨウちゃんのお父さんが、イギリスから、妖精のタマゴを持ち込んだからなんだって。

 そのタマゴが孵化して、今のチチや、ヒメになった。


「きいてよ、チチ。ヒメ。人間の世界ってさ、なんかこう、すご~くめんどくさいの。『塾』とか、『勉強』とか。やらなきゃならないことが、いっぱい決まっててね。子どもは、みんな、おとなしく、先生や親の言うことにしたがっていくだけ。あたし最近、おとなになることは、工場の部品にされてくことのような気がするよ」


 ヒースの葉っぱに座り込んだ、あたしのまわりで。

 チチとヒメは、くるりくるりと宙返り。


「チチチチチ」

「キンキンキン」


 うす闇の空に、軽やかにひびく妖精たちの声。

 なんだか、すっごいお気楽。


「チチチ」


 チチが白い手をのばして、あたしの右手をとった。

 って思ったら、左手を、ヒメににぎられる。

 ふたりに両手をとられて。ふわっと空にとびあがって。

 あたしもいっしょに、宙返り。


「うわっ  これって、バク宙~っ!? 」


 だってこれ、体育の時間にヨウちゃんがやってたヤツっ!


 あたしなんて、人間の世界じゃ、マット運動で前転が、せいいっぱいなのに。

 羽があれば、体は軽やか。

 今度は、三人いっしょに続けて三回、宙返り。


「す、すご~いっ! あたし、ヨウちゃんよりむずかしい技、できちゃった~っ!! 」


 キャッキャッ笑って、空にはねたら、妖精たちも、つりあがり型の寄り目を、きゅっと細めて、笑ってた。


 あ……自由。


「こうしなきゃいけない」とか「ああしなきゃいけない」とか、型にはめられることが、ぜんぜんない。


 あたしはやっぱり、人間よりも妖精のほうが向いてるのかな……?


「チチチチ」


 チチが、つ~っとあたしの手を引いた。

 まるで宙のプールをただようように。けのびして、チチに連れられていく。


「チチチン」


 ヒメが羽をはばたかせて、あたしたちの前にまわりこんだ。先に砲弾倉庫の中に入ってく。

 ヒメはからっぽの部屋の一番奥まで来ると、鉄の扉の取っ手をつかんだ。


「……え?」


 今まで、気づかなかった。

 この倉庫の正面奥の壁に、茶色く錆びた観音開きの扉がついている。取っ手は鉄製で、牛の鼻輪みたい。

 ヒメは全身の力をつかって、扉を引っぱるんだけど、妖精の体は小さすぎて、あんまり扉が開いてない。


「中になにかあるの?」


 数センチだけ開いた扉の前で、ヒメは三日月型の口でほほえんだ。


「チチチチチ」


 チチに肩を押されて、扉の中をのぞいてみる。

 金庫みたいに小さな部屋。

 うす闇の中になにか置いてあった。

 そのなにかを、黒いモヤが取り巻いている。


 ぞくっと寒気がした。


 モヤの中から、視線を感じる。




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