《1》 あたしの背中の羽のこと3 - ナイショの妖精さん2
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《1》 あたしの背中の羽のこと3

  23, 2018 21:59
2018121801



 真央ちゃんの後ろについて、廊下に出ようとしたら、こつっとおでこをこづかれた。


「ほぇ?」


 マヌケな声で、顔をあげると、あたしを見おろしてる、琥珀色の目。


「綾。おまえ、そのカッコで体育する気か?」


 ……へ?


 アホ毛をゆらして、自分の姿を見おろして、気がついた。

 長そでシャツに、ミニスカート。


「うぎゃっ! あたし、体育着に着がえるの、わすれてたぁっ!! 」


 また、やっちゃった。


 これじゃ、誠といっしょにされてくやしいとか、エラそうなこと言えないっ!


「ったく。ホンット、おまえは。いつまでたっても、アホっ子だな」


 ふっと、琥珀色の瞳が細まった。

 あきれている声なんだけど、目の奥はあったかい。

 あたしの胸まで、ふんわりしちゃう。


 この人。リンちゃんや青森さんたちにとっては、琥珀色の髪の王子様。

 だけど、あたしにとっては、ただの「ヨウちゃん」。


 あ……そういえば、ヨウちゃんだって、塾に行ってない!







「塾? 行けば?」


 さっくり言われた。

 ここは、ヨウちゃんちの自宅カフェ「つむじ風」の地下にある、お父さんの書斎。


「あ~もう。なんでみんなして、おんなじこと言うの~?」


 窓辺に置かれたアンティークなゆりイスを、あたしはギイギイとこぐ。


「そりゃ、おまえがアホだからだろ?」


 本だなの前の、社長のディスクみたいな、大きなつくえで。

 ノートから顔もあげずに、ヨウちゃんはそっけない。


 南から西に大きく開いた格子窓。窓の外は、一面に広がる、青い海。

 部屋ののこりの二面の壁は、天井からゆかまで、たながそびえている。

 重たい木のたなに、びっしりとつまった本の背表紙は、どれもこれも英語。

 本のほかには、なべやすりこぎや、ガラスビンなんかも置いてある。

 亡くなったお父さんを引きついで、今は、ヨウちゃんがこの部屋を占領している。


「妖精に、タマゴを産ませるには。好きな花に、別の花の花粉を何種類かあわせて受粉させ、受粉させた花を、一週間、妖精に抱いて寝かせる。運がよければ、一週間後の朝、花はタマゴにかわる。成功する確率は、十パーセント」


 ヨウちゃんはさっきから、「妖精のタマゴ」について調べてる。


 なんか、むずかしすぎて、よくわかんない。


 あたしがひざの上で開いているのは、花の妖精を精密に描写した画集。描いたのは、昔のイギリスの絵本画家なんだって。

 放課後、この部屋に来るのが、最近のあたしの日課。

 格子窓から入ってくる日差しと、重くて古い本たちが、あたしの心を落ちつかせる。

 ヨウちゃんはいつも、お父さんのつくえでノートを読んだり。ハーブを煮詰めて、ヘンな薬をつくったり。

 あたしの話に、たまにうなずいたり。たまに笑ったり。たまに毒づいたり。

 それだけなんだけど。

 あたしは毎日、そんなヨウちゃんを見たくなる。

 学校だと、ほとんどあたしに向けられない笑みが、書斎の中では、そばにあって。

 学校だと、石膏みたいに硬そうなほっぺたが、書斎の中では、桃みたいにやわらかくて。


 ゆったりと流れる、静かな時間。




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