《1》 あたしの背中の羽のこと2 - ナイショの妖精さん2
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《1》 あたしの背中の羽のこと2

  20, 2018 18:25
2018121801


「塾? 行けば?」


 真央(まお)ちゃんにあっさり言われた。

 休み時間でざわつく、六年生の教室。

 ここ、花田(はなだ)市立小学校は田舎にあるから、一学年に一クラスずつしかない。

 真央ちゃんは廊下寄りの席に座って、体育着の短パンからのぞかせた、ダイコンみたいな太ももを、ぐいっと組んでいる。


「だって、塾くらい、うちだって行ってるし。有香(ありか)だって、週三で行ってるよな?」


 そしたら、真央ちゃんのつくえのわきに座った、有香ちゃんもうなずいた。


「うん。あと、ピアノとバレエね」


 バレエをやってるからかな? 有香ちゃんの背すじは、ピンとのびていて、体育着のシャツから出ている手足は、細くて長い。

 ふたつにわけてむすんで、胸の前でたらしている髪は、バレエのときは、おだんごにまとめるんだって。今はかけている黒縁メガネも、コンタクトレンズにしてるって、きいた。


「てか。六年で習い事してないのって、もう、綾と誠(まこと)くらいじゃないの?」


 真央ちゃんが、天然パーマのボブ頭をふわってゆらして、黒板のほうに顔を向けた。

 教卓の真ん前の席で、誠が山田と手をはたいて笑ってる。

 おサルみたいに、横に広がった大きな耳。体育着から出ている手足はひょろひょろで、夏の日焼けがまだ完全に抜けきれてない。

 誠はいつも、平気で宿題をわすれてくる。

 それで先生に怒られても、ヘラヘラ笑っていて、ちっともきいてない。

 たぶん誠は、サッカーボールひとつあれば、毎日ゴキゲンでいられるんだと思う。


 う……。

 さすがに、あのチビッ子といっしょにされるのは、くやしいかも……。


 真央ちゃんの前の席で、あたしがスカートのすそを、にぎりしめたとき。


「次、体育っ! 全員、体育館に移動~っ!! 」


 って、背の高い男子が、ズカズカと教室に入ってきた。

 おとなみたいに低い声。

 体育着を着ている手足はすらっと長くて、筋がうきでていて。肩幅は広くて。

 態度だって、先生みたいにふんぞり返っちゃって、すんごいエラそう。


「おっけぇ~、葉児(ようじ)ぃ」


 誠がクリクリ目で、にぱっと笑った。

 このふたりが同じ年に生まれたなんて、あたし、どうしても信じらんない。


「中条(なかじょう)くぅ~ん。体育委員ごくろうさま~」

「ねぇねぇ、体育館でなにやるの~?」


 リンちゃんも青森(あおもり)さんも、黄色い声をあげて、教室の前へあつまっていく。


「おとといと同じで、バスケの練習。体育館行ったら、先生が来るまで、チームごとにパス練習してろって」


 だから、なんでそう、上から目線で言うんだろ?


 染めてもないのに、琥珀色のさらっさらの髪。

 嫌味みたいにキレイな、琥珀色の目。

 なんでも亡くなったお父さんがイギリス人だったとかで。そのお父さんが、えっらいイケメンだったタナボタで、本人までイケメンに育っちゃって。

 鼻筋が通っていて。あごはしゅっとひきしまってて。ほおは石膏みたいに白くって。

 見てくれだけは、ムカつくぐらいイイから、とにかく女子たちがあつまってくる。


 ……チームごとに練習かぁ。


 みんなが動き出した教室で。

 あたしも、ぼんやり、真央ちゃんの前のイスから立ちあがった。


 そういえばバスケ、あたし、ヨウちゃんと同じチームなんだよなぁ~。


 だけどあたし、学校ではほとんど、ヨウちゃんと話さない。

 ヨウちゃんがいつも、女子たちにかこまれてるからって、いうのもあるけど。


 なんだか、ふたりでいるときとは、別人みたいで……。



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