ナイショの妖精さん5 - 1ページ目27 - くまひろさんの創作部屋
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 ドキン、ドキン。心臓が鳴る。 あたしの横を通りすぎるとき、ヨウちゃんは、琥珀色の前髪をうつむけた。「気にすんな。言わせたいヤツには、言わせとけ」 トクンと胸が打ちつける。「……ヨウちゃ……」 呼びかけた口を、あたしは閉じた。 遠ざかっていく、琥珀色の後ろ髪。 あたしたちは、他人。 クラスで一番遠い、他人――。――「ナイショの妖精さん 5」 完――次のページに進む前のページへ戻るコミカライズ版もあります!!...

 土曜の夜にパパとママにつれられて、家に帰って。さんざん怒られて。 日曜日は、ずっと自分の部屋で泣いていた。 なのにまだ、目に涙があふれてくる。歯をくいしばっても、こらえられない。 ちゃんとうつむいてなきゃ。月曜の昼間っから、学校で泣いてることが、みんなにバレちゃう。「ねぇねぇ、和泉さん、だいじょうぶ?」 音楽室に向かうとちゅう。廊下を歩いていたら、女子たちに呼びとめられた。「……え?」 胸に音楽の...

 六年生の教室は、今朝も騒がしい。「おはよう~」って声。「土日、なにしてた~?」って声。「家でゲーム」とか「サッカー」とか、そんな声が答える。 あたしは、教室の中に入らないで、ドアの前で立ちどまっていた。 あたしのおでこには、絆創膏がはられてる。 スカートから出ている左ひざにも、絆創膏がはられてる。 アホ毛はあいかわらず、頭のてっぺんでつっ立っていて。これじゃ、いつも以上に、ドジなアホっ子キャラ、...

「綾、ほかに痛いところはないか?」 ヨウちゃんは、あたしの左肩に、レモンバームの塗り薬を塗ってくれた。「えっと……。あとは、転んだり、枝に打ちつけたりしたところ。レモンバームは妖精の羽につけられた傷にしか、効かないんだったよね」「……ああ……ごめんな」 薬が効かないのは、ヨウちゃんのせいじゃないのに。ヨウちゃんはしゅんっと、肩を落としてる。「へ~き、へ~き。どうせすぐに治るって」「けど、おまえ、アザにな...

 なに、その……目……。 あったかくて、やわらかくて。でも、ゆがんでて、今にも涙があふれだしそうな。「綾……大事にしろよ。羽」「……うん」「オレのかわり……なんだぞ……」 声が震えだす。ヨウちゃんは歯を食いしばって、またうつむいた。「うん……」 ズキズキと胸が痛い。 肩の傷より、手や足の傷より、胸のほうがずっと痛い。 あたしの目から涙があふれて、ほおを伝っていく。 そのほおに、ヨウちゃんは土のついた手のひらをそ...