あたしが蹴とばした石っころが、ころころヨウちゃんの足元まで、坂をのぼっていった。「ふ~ん。そうやって、ヨウちゃん、自分が言ったことを、なかったことにする気なんだ~。サイッテー。このごろリンちゃんたちとも、たくさん話してるみたいだしね。どうせ今に、リンちゃんたちにも、『オレがいる』とか『おまえだけだ』とか、都合のいいこと、言いはじめるんでしょ~?」「……おまえな。オレが、倉橋たちと話してんのは、おま...
低く連なる一戸建ての向こうに、浅山の山並みがのぞいている。 堤防の向こうは、白い海。海の上の空も白い雲でおおわれている。 季節はいつの間にか、秋。 高台の並木を涼しい風が吹き抜けていく。 詩人になった気分で歩いていたら、先行く背の高い背中がふり返った。「――で。綾。なんでオレについてくんだよ? おまえの家は、逆方向だろ?」 坂のとちゅうで、ヨウちゃんが立ちどまって、腕を組んでる。 いつも思うんだけ...
ガチャって、部屋のドアが開いた。「どう? 傷は治った?」 にっこりエクボで、ヨウちゃんのお母さんが入ってくる。 う、うわぁああああ~っ!! バッと、ヨウちゃんの両手が、あたしの背中からはなれた。「い、いや、あの、な、な、な、なぉったあああああ~っ!! 」 ヨウちゃん、耳まで真っ赤っ赤で、ベッドの上につっぷしちゃった。次のページに進む前のページへ戻るにほんブログ村児童文学ランキング...
右手の甲だって、左足だって、ほっぺただって。薬を塗っただけで、するりするりと治っていく。 寝たきりだったヨウちゃんはもう起きあがって、ベッドの横に足を出して、腰かけている。「ねえ、もう、これで傷はぜんぶ?」「あとは、背中と肩だな」「パジャマ、ジャマ。ぬいで」「って、おまえは、ヘンタイかっ!? あとは自分で塗るからいいっ!」 バッと、薬ビンを奪いとられる。 なによ~。これじゃあ、さっきまでのほうが...
「お願い。二階の手前の部屋だから」「は、ハイっ!」 ビンをにぎって、バタバタ階段を二階にのぼっていって。手前の部屋。 ドキドキしながら、ドアノブをつかんで引いたら、ヨウちゃんの部屋の窓の外も、白んでいた。 部屋の広さは、となりのお母さんの部屋とおんなじくらい? あたしの部屋よりは、ほんの少し、せまいかな? 男の子の部屋って、こんなんなんだ……。 ぬいぐるみとかキャラクターグッズとか、そういうカワイイ...